本日は漫画の感想ではなく、漫画の広報について思うところを書きますー
多分Twitterをやられている方でマンガ好きな方だと、9/17に配信された『作りたい女と食べたい女』の感想をちらっと見られた方もいらっしゃると思います。
今回は、内容には触れずにその配信の方法の配慮がすごくいいって話、
そしてこれは現段階で最も求められている広報の形なんじゃないかなって話を書き留めておきたいなって思います。
もちろん『作りたい女と食べたい女』の内容もむちゃくちゃいいぜ!
今回は
- あらすじ
- 公開時の注意書きとweb公開漫画の問題点について
を書きます。
『作りたい女と食べたい女』
【あらすじ】
少食だけど料理好き、食べられないのにいっぱい「作りたい女」、野本さん。
長身で大柄、量をしっかり「食べたい女」、春日さん。
同じアパートの隣の隣に住んでいた二人が出会い、二人が嬉しいことを二人で一緒にやる。
デカ盛りグルメものながらきれいな食べシーンと、女性同士の優しい連帯を描く「シスターフッド」がじんわり沁みる漫画です。
公開時の注意書きとweb公開漫画の問題点について
↑は、9/17に『作りたい女と食べたい女』が公開された時の、コミックウォーカーでの1ページ目です。
内容には触れませんが、確かに該当する属性の人は傷ついたり、また「こういう目で見られたくない!」と感じるであろう表現を使用していました。
私は、これこそ現在のwebコミックに必要な注意書きだな、ととても感動しました。
この注意書きは、2点の問題点を解決してくれます。
- エンターティンメントに必要な描写で精神的なショックを受けるかもしれない人への配慮
- web、無料で簡単にアクセスできる漫画のゾーニング
この2点は問題が絡み合っているので、ひとまとめに解説ができます。
その問題点の例として『ルックバック』を挙げます。
『ルックバック』は2021年7月19日に発表されたジャンプ+の読み切りです。
無料で読める状態でTwitter告知され、その完成度にTwitter上で拡散、大評判になりました。
しかし反面「凶行を振るう犯人の言動が特定の精神疾患を連想させ、該当疾患を患っている人への差別を助長するのでは」という批判も相次ぎました。
その結果集英社は、発表から半月ほど経った2021年8月2日にセリフを一部修正、配信し直しという対応を取りました。
そして2021年9月3日に発売された単行本で、さらに該当のセリフを修正しています。
私個人としては、この修正対応に関しては反対と賛同両端の意見を持っています。
まず反対に関して。
私は表現の自由に基づき、表現はどのような形も許されるべき、という考えです。
2021年9月3日に発売された単行本では、該当のセリフにさらに変更が加えられていました(詳細は自分で買って読まれたし←これも後述)。
つまり2021年8月2日の修正版は著者の意図するところではなかったということです。
その改変に関しては遺憾に思っています。
しかし対応に関しては賛同しています。
なぜなら現実と創作は別と言いつつ、その表現で人が傷つくことはあり得るからです。
問題となった疾患にかかっており、普段から受けている差別をなぞるような表現をされれば傷つく人もいるでしょう。
また該当疾患への偏見の現実があり、創作表現がその疾患の偏見部分の印象を強めてしまうのはまさに差別の助長です。
こういった問題を避け、表現の自由を守りつつ傷つく人を減らすために必要なのが「配慮」「ゾーニング」の2点だと思っています。
ここで『作りたい女と食べたい女』16話の話題に戻ります。
『作りたい女と食べたい女』16話では、配慮とゾーニングの両方の問題を解決しています。
それがこの記事の冒頭で貼った注意書きです。
「今回の話では、性的マイノリティーへの
差別構造がある現実を描くため、
一部で差別的に使われる用語の使用や、
精神的なストレスを感じられる可能性がある場面の描写を含みます。
ご自身の判断にてご覧いただきますよう
お願いいたします」
ゆざきさかおみ『作りたい女と食べたい女』9/17配信分株式会社KADOKAWA(コミックウォーカー)より引用
この宣言で、まず該当表現について著者が無意識で使っているわけではないこと、創作の質のためにあえて差別的な用語を使用することが示されます。
差別をなぞることが事前に明記されていれば、その表現が創作上も差別の事例として出されていることが分かります。
この文を読んでなお『作りたい女と食べたい女』16話の差別表現を、一般的な認識であったり事実として誤認したりする可能性は極めて少なくなると思います。
またそうは言っても今現在、差別を受けている人は傷つくこともあると思います。
そういった人はこの宣言を受けて読まない選択もできるし、覚悟を決めて読むこともできます。
クリックの先に傷つく表現があるかもしれないこと、それを先に明示して回避できるようにすること、これは無料web漫画におけるゾーニングの一つの形です。
この2点の実行は非常にめんどくさい、堅苦しいと思われるかもしれません。
しかし『ルックバック』『作りたい女と食べたい女』16話に共通しているのは、「基本的に無料で誰でも読めてしまう形態」というところ。
日本に住む人の中での現在のTwitter利用率は、約4割だそうです。
日本に居住する人の4割が使うSNS告知の上、実質無料で読めるとなれば、そこはかなり公の場に近くなると思います。
となれば、精神的にショックを受ける準備もなく目にしてしまう人も出てくるでしょう。知識なく差別表現に触れ、差別表現が一般認識であると誤認する可能性もあります。
では創作から差別表現をすべて撤廃するべきか?と言えば、それは無しだと考えます。
私はその差別表現を用いることで創作の内容が向上するなら、使用することが創作への誠実な姿勢だと考えています。
現在、多くの人の目に触れる形式でマンガの広報→購読(無料でも)をする形態はとても多いです。
そういった形式の告知マンガにおいて、1ページの注意書きで配慮とゾーニングを達成した『作りたい女と食べたい女』16話はとても創作に誠実で、差別に真摯な対応だったと思います。
今後同じような形態でセンシティブな表現の配信をする場合は、ぜひ慣習にしてほしいと思う例でした。
なお、『ルックバック』単行本では該当のセリフは7/19バージョンでも8/2バージョンでもない形に書き換えられています。注意書きもありません。
しかし『ルックバック』はもう無料で読めません。お金を出して本を買う必要があり、不特定多数の人の目には触れない状態になっています。
これもまたゾーニングの一種だと思います。
また最近では、単行本発売でも(無料公開ではない)児童虐待に関して注意書きをした『とんがり帽子のアトリエ』という作品もあります。これは丁寧な配慮としてとても評価されています。
この注意書きが形骸化すると意味が薄れてきます。作品の内容や広報の方法、発表時の価値観に合わせ、丁寧に提示をしてくれることを願っています。
※なお、『ルックバック』の修正所対応に関してはweb公開漫画の通過点だったと思っています。
あの炎上も含めて『作りたい女と食べたい女』16話の注意書きにもつながってきていると思います。
そのため、日本のweb公開漫画の進化がいい方向に進んでいて、とても嬉しいなあと思う次第です。