闘病記として・・・
そして夢をあきらめない人の漫画としてオススメな漫画です。
「35歳からまだまだやれるんだ」がマジで起こった、その前の話。
【あらすじ】
漫画家を目指して漫画アシスタントをする35歳、著者の武田一義。
彼は睾丸癌に侵され、入院を余儀なくされていた。
妻の早苗、犬のビッグ、そして同室の入院患者の面々やアシスタント仲間。
様々な人と関わり支え合いながら、過酷ながん治療に耐える日々を描く。
【感想】
闘病記です。
エッセイというには整っているし、フィクションというには現実の知人が登場する。
舞台は基本的に病室の片隅。吐いたり、イライラしたり、同室の入院患者とふれあったりと、がん患者の入院生活をまるっと淡々とながめていきます。
エッセイテイストですがストーリーは起承転結をきちんと押さえたつくり。しっかり構成が練られています。
むき出しのエッセイから1枚フィルタがかかったようなジャンルです。
また絵の柔らかさがあるので、闘病のしんどさが軽減されます。
吐いたり、奥さんに八つ当たりしたりといった辛いできごとも(少しは)優しい雰囲気になります。
ただ逆に、かわいらしい絵で同室の入院患者さんの先輩が亡くなるのはこたえます。
優しい絵の特性を最大限に活かし、普段の辛さは軽く、生死に関わる辛さは倍増する闘病記です。
そして何より、病気を得てからのリアルの進展がすごい。
本作での武田先生は、いまだ連載作のない、35歳の漫画アシスタントです。
退院後、本作の連載が決まります。
しかし武田先生はその後、『ペリリュー~南国のゲルニカ~』という名作を著し、アニメ化も進展中(※2023/7現在、いまだにアニメ化のニュースは聞かれません・・・)です。
私はそもそも『ペリリュー~南国のゲルニカ~』で武田先生を知りました。
インタビュー記事を読んだり実際に漫画を読んだりして、漫画家としての技量は折り紙付きだと思っています。
- 「戦争に関する本はほとんど読み」、「生き残りに会って取材」「現場にも足を運ぶ」取材量
- センシティブな内容をしっかりとエンターテインメントに仕立て上げている演出力
- 本来の超画力の画風を封印し、かわいらしい画を最大限に戦争漫画に活かす
『さよならタマちゃん』の時の武田先生はいまだ卵のままのアシスタントでした。
しかし癌を経て、武田先生がどれだけ頑張ったのであろうかと創作を超えて胸が熱くなります。
誰もかれもこうであれ、とは言いません。
しかし「病を得て躍進した人の闘病記」として超貴重なものだなと思います・・・!
(というかペリリュー、超面白いのでみんな読んだ方がいい。苛烈な内容だけどしっかりエンターテインメントだし、『さよならタマちゃん』のエッセイとフィクション紙一重の面白さはそのまま引き継がれてるよ!)