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『あしたのジョー』の葉子さん論~もっとやれ葉子さん!あなたは美しくて傲慢な首謀者~

 

こんにちは漫画ライターの中山今(女)です。

 

本日はようやく履修しました『あしたのジョー』を、フェミニズム視点・・・というか葉子さんについて語りたいと。

 

まあ正直およびじゃないっていうか、男だけの世界の漫画にまさに「しゃしゃり出る女」で大変申し訳ねえ。

 

でも思っちゃったから書きます。これが表現の自由

 

というか、ちばてつや先生の表現力のおかげじゃないか、という気もするのだけど。

 

葉子さんのコマで一つ、むちゃくちゃ好きなコマがあったよ、って話。

 

あしたのジョー

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高森朝雄(原作)ちばてつや(画)『あしたのジョー』 講談社1970年 より引用
【あらすじ】

1960年代にドヤ街にフラっと現れた少年、矢吹丈(ジョー)。

 

親はなく、心は荒み、そして喧嘩だけは猛烈に強かった。

 

ドヤ街の酔っ払い、丹下はジョーの腕に惚れた。

 

丹下は元プロボクサーであり、現在はすっかり落ちぶれていた。

 

しかし彼の眼は見抜いていた。ジョーのボクシングの才覚を・・・

 

ジョーの型破りな魅力。少年院に入り、自暴自棄ともとれる行動を繰り返しながらも最後には必ずリングに立つ闘志。

 

そして力石、カーロス、金、ハリマオ、ホセといった多種多様な敵たち。

 

高度成長期に熱狂を以て迎えられた、伝説のボクシング漫画。

 

【葉子さんのこと】

 

で・・・・

 

あらすじでまったく触れていないけれど、とても重要なキャラクター「白木葉子」について、今回は語りたいと。

 

葉子さんは白木財閥のお嬢様。

 

ジョーが15歳のころ、悪さして少年院にぶち込まれていた時に慰問訪問してきたのが葉子さん。

 

はっきり言っていけすかない少女で、芝居の上とは言え丹下のおっちゃんを血まみれにしばきたおすなど人権感覚が希薄。

 

その上ジョーに「偽善」と煽られて(図星)、どうもそのころからちょっとした関係っぽい少年院のボクシング強者、力石を立ててジョーとの試合を組む。

 

私情を隠さないくせに権力もフルに使う、かなりヤバい少女よね。

 

成長してからも、おじいさまのボクシングジム、白木ジムを突然乗っ取り会長になったり、テレビ局各局を脅して「ジョーVS今から探すボクサー」というむちゃくちゃな試合を企てたりとやりたい放題。

 

 

ジョーじゃなくても「(お前みたいな女)しゃしゃり出てくるな」と言いたくなるような振り回しっぷり。

 

でも、私は葉子さんのことがすごい好きだ。

 

このコマで大好きになった↓

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 高森朝雄/ちばてつやあしたのジョー講談社漫画文庫8巻 講談社 より引用

 

この横長のコマ使い、背景なしでの吹き出し2つに分けた独白。

 

なんてかっこいい・・・・!

 

このシーンは、ジョーVSカーロス戦にて血しぶきの舞う激しい戦いが繰り広げられていたリング脇。

 

カーロスは「無冠の帝王」と謳われた力石以来のジョーのライバル。その実力差は大きく開いており、試合は「矢吹ジョーを公開殺人」というゲスな触れ込みでチケットが売れに売れている。

 

歴々たるプロモーター(壮年以上の男性)を差し置いて、この狂気的な試合を組んだ葉子さんは自身のことを「悪魔かもしれない」と自問する。

 

矢吹ジョーを死に至らしめるかもしれない、また人間の狂気を金に換えている悪魔であるかもしれないと。

 

案の定血みどろのボクシング。葉子さんは惨状におじけづきながらも、自らの責任を誰かに擦り付けることなく引き取ろうとするのがこのセリフです。

 

 

 

 

私は当然、『あしたのジョー』を男と男の1960年代ドラマ(高度成長期のスポ根)として読んでいるわけで、葉子さんはノーマークだったわけです。

 

高慢ちきなお嬢様でありつつ、責任から逃れない威風堂々たるたたずまい。

 

そしてその横顔が美しいのはちばてつや先生の描画の為せる技・・・!

 

今回『あしたのジョー』を一気読みしたのですが葉子さんの魅力にぞっこん。

 

高度成長期、財閥令嬢としての矜持。あなたは高慢ちきでそして美しい。 

 

もっとやれ葉子さん。ジョーに一泡吹かせてるのは、実はあなたしかいないんだ。

 

 

 

と言いつつ・・・

 

物語の最後、ジョーが死にに行く試合を止める際、葉子さんはジョーに告白します。

 

って力石はーーーーーーーー!?

 

いやまあいいんだけど。誰を好きになっても。

 

確かにまあコレだけ長期間にわたりジョーに粘着してたの、何かしら好意はあると思うんだけどッッ

 

葉子さん、私はその辺はジョーという才能を殺したくない、「プロモーターとしての打算も大いにある」と受け取っておくよ・・・!

 

 

 

えーととにかく私はあのコマの葉子さんが大好き。

あの美しい首謀者が大好き。