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漫画好きが読んだ漫画や本の感想を書くブログです。

面白さを追求したらマッドマックスみたいにフェミニズムが「呼ぶ」ことがあるんだな。読み切り漫画『峯落』レビュー

 

 


私は感動しておりますッ・・・・!

 

なにって、『峯落』の持ったメッセージ性にですよッ!!!

 

(↓2023/7現在、『峯落』のWeb無料公開は終了しています。単行本『ようきなやつら』に収録されていますのでご興味あればどうぞ)

 

comic-action.com

 

『峯落』は青年を対象にしていると思われる漫画。


しかし私は女性の障害を討ち崩すメッセージを受け取りました。

 

作者の岡田索雲先生は、この視点で論じられるのは心外かもしれません。

 

なぜなら『峯落』はエンターテインメントとしてもカタルシスのあるばりばりの青年漫画だからです。そう、おもしろいんだよ!

 

本記事では『峯落』のメッセージ性、エンターテインメント性についてご紹介したいと思います。

 

以下の項目でお伝えしたいと思います。

 

  1. 『峯落』のデータとあらすじ
  2. 『峯落』の女性ジェンダー視点のメッセージ性
  3. 『峯落』のエンターテインメントとしての面白さ

 

この記事では『峯落』の核心に迫るため、オリジナルで読む感想が薄れてしまうかもしれません。

ただし、性暴力、セカンドレイプ表現も含みます(この記事もそうです)。心配のある方はご注意ください。無理は禁物です。

※そのため、本記事も後半以降は有料記事とさせていただきます。

 

『峯落』のデータとあらすじ

『峯落』は双葉社の運営するweb漫画媒体「webアクション」に掲載された読み切りです。

  • 媒体 webアクション

comic-action.com

 

  • 作者 岡田索雲
  • 掲載日 2022年01月14日
  • 作者の代表作 『メイコの遊び場』『マザリアン』など。

 

岡田先生の主な作風はショッキングでグロテスク。寓話のような残酷さを描くのが得意な作家さんです。

特に『メイコの遊び場』は「超常的な力を持った少女が、薄ら寒い心象風景に引きずり込んだ人間の精神を壊す」という物語。

こどもらしく「このまえ友達と広場で遊んだ遊び」で人間の心を壊していく様は、読み手の体調が悪いとダメージを受けるほどの衝撃です。

 

↓kindleUnlimitedで読めるけど、グロの受け入れOKなヒト&時だけね?

 

 

【峯落のあらすじ】※セカンドレイプ表現がありますのでご注意ください

 

『峯落』の主人公マサリは山姥、つまり女性です。(↑のリンクの背中が写っている人物こそ、主人公マサリです)

 

彼女は孤立した山の村落に生まれ、その力を認められ次期頭領候補の三人のうちひとりに選ばれます。

 

しかし彼女は公然の場で、過去に頭領にレイプされた事実を告発します。

 

そして頭領に公衆の面前で自らの口から認めることを要求をします。

 

レイプをわざわざ「いたずら」と言い直して被害を矮小化する村の男性、怒り狂う頭領、捕縛されるマサリ。

 

マサリをかばってくれた村の少年が暴力を振るわれたことを見て、マサリは決意します。

 

山を動かす(正規ルートで頭領になりルールを変える)のはやめだ。崩す」と・・・・

 

 

 

『峯落』の女性ジェンダー視点のメッセージ性

 

 

あらすじに書いたとおり、マサリは傷を負った女性です。

 

そんなマサリに突き付けられる

性暴力の認知のゆがみ、セカンドレイプ、ガラスの天井・・・

女性への残酷な性暴力や社会の障害がこれでもかと盛り込まれており、またそれらすべての解像度が高く、筆者自身が女性なのですが、その立場として本当に驚嘆しました。

 

例えば

「レイプをわざわざいたずらと言い換える」

「お前には性的魅力がないからレイプなんて嘘だ、と笑う」

「リベラルっぽい男から『こんなことをしても何にもならない』と諭される」など、

こんなに的確な女性被害の表現、度肝抜かれるしかなかろうよ・・・!!


またマサリへの被害もそうですが、あいまに挟まる

  • 村の女たちの会話
  • 頭領の奥さんの態度

など、男性に差別され虐げられ、希望を見いだせない女性たちの様子が浮かび上がってきます。

 

女性がただ存在すること、それをあきらめるような空気がそこには描かれています。

それをやぶろうとする人こそマサリであり、『峯落』のメインテーマです。

 

強いメッセージ性のある漫画だと思います。

 

では『峯落』がメッセージ性だけの漫画なのか?ということを解説します。結論から言うとそんなことはないんだぜ!

 

『峯落』のエンターテインメントとしての面白さ

 

『峯落』はハードボイルドヒーローバトルアクションだと思います。

 

感情を表に出さない強靭な女、マサリ。

彼女が自分、そして村の弱い者のために、権威側をぶちのめします。暴力で。

 

端的に申し上げて『マッドマックス』『北斗の拳』の系譜と思っていただいて間違いありません!

 

ただし『峯落』では「弱者」と「ヒーロー」の定義がとても現代的です。

現代的だからこそ受ける悲劇の残酷さが真に迫るし、敵をうちのめすカタルシスも強いという寸法です。

 

まず、マサリが守る「弱者」は女性だけではありません。権力側に行けなかった者すべて、つまり優しい男性なども含みます。

 

次の頭領を決める集会、つまり投票とでもいうべき集会の前列は、ムキムキの男しかいません。

体つきが小さい男性は、女性と共に厨房で働いている描写があります。

 

つまり『峯落』の村落で権力への発言権があるのは、マッチョな・・・支配階級の男しかいないのです。

 

捕縛されたマサリを助けてくれたのは、ウサギを愛でる優しい少年でした。

その少年が暴行を振るわれたことにより、マサリは弱い者のために「山を崩す」・・・暴力によって構造を破壊する決意をするのです。

 

そして「ヒーロー」マサリは、レイプされた過去を認めてもらうことを要求しながら、セカンドレイプにひるむことなく他の女性たちの分も矢面に立つ女性です。

 

他者を守ることと、自分の名誉を回復すること、マサリの目的は両方を叶えることであり、「自分は死んでもいいから」というような破滅型のヒロイズムではありません。

 

「自分も守る」ヒーローは、ハードボイルドなヒーロー像として斬新だと思いますが、とても現代的だと感じます。

 

このように弱者観、ヒーロー観は現代的でありながら、物語は王道の運びでヒーロー物語を十分楽しむことができます。

 

 

 

弱きものを助けるため、傷を持った孤独なマッチョが立ち上がり、権力マッチョどもを暴力で容赦なく追い詰める。

 

最初は威勢の良かった悪党が、ヒーローに追い詰められてものすごく情けなくなる。その爽快感と・・・・一抹のわびしさ

 

 

マサリは女性の性と大いなる痛みを持つハードボイルドヒーローなのです。


そんなマサリがアアアアアア~~~バトル無双!

  • ページ数の限られる読み切り内で、見開きの無双系なぎ払いバトル!
  • 一部熱狂的なファンのいる(私とか)「殺気を持ったキャラの目の光が残像を残す」アクションエフェクト!!
  • 「こんなことをして何になる」という偽善ヤロウにこそ頭突き連打で執拗にぶちのめす!

 

どうですー?面白そうじゃないですー?

 

 

私は女性でもありますし、また趣味で犯罪心理学をかじっております(犯罪ものの漫画とか好きなんで)。

 

そのため『峯落』の女性への性暴力にまつわる表現は実に生々しく、リアリティに富んだものであると感じます。

 

そもそも、女性を虐げる権威ヤロウどもが(権威外の男性を含む)弱い属性に優しいわけないんだよ。それをぶちのめす物語は一般庶民ならたいてい面白く感じると思うぜッ!

 

男性の方も、女性の方もぜひにお勧め。

こんな漫画が出てきて私ァ嬉しいよッ!!!!