- 女の子のセックスに前向きで、
- 個人発表のネット上で人気が出て
- 女の子の描いてる漫画
ってな~んだ?
答えは2作。
『さびしすぎてレズ風俗に行きましたレポ』『T子の一発旅行』です。
上記3つの条件では合致している2作ですが、内容や読み口はまっったく、真逆と言っていいくらい異なります。
でも、女の子のセックスに前向きで個人発表のネット上で人気が出て女の子が描いてるんです。これは間違いないんです。
今回はその2作の紹介と、そして上記に挙げた3つの条件について深掘りしてみようと思います。
この3条件を満たす漫画、私はもっと増えてくれればいいなあって思うんですよ。
以下の項目でご紹介したいと思います。
1.『さびしすぎてレズ風俗に行きましたレポ』の紹介
2.『T子の一発旅行』の紹介
3.増えてほしい漫画の3つの条件について深掘り。性は生だし、商業を出し抜いてほしいし、当事者であってほしい。
4.まとめ。世界よ!もっとあけすけに女の子の性を語れ!
1.『さびしすぎてレズ風俗に行きましたレポ』の紹介
さびしすぎてレズ風俗に行きましたレポ
作者:永田カビ
出版社:イースト・プレス
漫画の発行日:2016/6/23
あらすじ:
28歳で鬱・ニート・摂食障害・自傷癖アリの「なにものでもない女性」永田カビ。
動かないからだ、恵まれない家族から死を予感した時、彼女が現実へのカウンターとして選んだ手段は「レズ風俗に行くこと」だった・・・!
感想:
基本的に1ページ4コマ固定で綴られるエッセイ風漫画。
フィクションではありますが、タイトルに「レポ」ともありエッセイの様相を呈しています。
作中登場人物「永田カビ」のままならない人生が余すところなく綴られ、家族の様子を見ても「こりゃあ毒親だわ~」と納得する、痛々しい思いが延々と吐露されます。
それほどまでに痛々しいのになぜかサラッとした読み口。かわいくもオールドなセンスの2色刷りの絵が爽やかな、性にすがって生き直す女性のお話です。
2.『T子の一発旅行』の紹介
T子の一発旅行
作者:穀子
出版社:祥伝社
漫画の発行日:2022/5/7
あらすじ:
あまり在る性欲を持つ台湾在住の美術系学生・T子。
お隣の国・日本で解放感のある東洋系ワンナイトラブを目指して初の海外旅行へGO!
感想:
エッセイ風でありながらエロ漫画。
エッセイ風に読めてしまうのは、あくまで普通の女の子T子と日本男子の下半身事情のリアリティあってこそ。
しかし犯罪の危険のなさやT子のプロポーションなど、フィクションとして夢を見るのに十分な性ファンタジーです。
1ミリの躊躇もなくセックスを狙うのに、コトの最中に男子が飼っている猫に監視されて萎える・・・いや「乾いて」しまうなど、女性主体のエロを存分に楽しむT子の明るさに笑う痛快な物語。
文化ギャップを楽しむ旅モノとしても面白い。
3.増えてほしい漫画の3つの条件について深掘り。性は生だし、商業を出し抜いてほしいし、当事者であってほしい。
それでは、今回ピックアップした2作品が持つ「増えてほしい漫画の3つの条件」って何の話?を解説したいと思います。
改めて3つの条件とは↓
- 女の子のセックスに前向きで、
- 個人発表のネット上で人気が出て
- 女の子の描いてる漫画
ひとつずつ解説します。
まず「女の子のセックスに前向き」
これはもうそのままですね!女の子はもっとセックスを語るべきです!!!
と言いますのも、漫画創作において女子の性欲を歪めて見ちゃうこと、結構もう読みづらくなってきてるなって思って。
日本漫画において女子のセックスを漫画に出す時、いくつかの条件付けが必要です。
- 女子の性欲がないパターン→性欲がないので男性(相手)が主導する
- 女子の性欲が異常パターン→どこでもどんな時でもオールOK!
- 世界設定そのものがエロに満ちているパターン→エロは日常なのであって普通だよね
でも全部嘘じゃん!!
誰かが無理やりヤってこないとできないとか、状況としてヤってる場合じゃないのにあえてヤるとか、世界がエロに満ち満ちているとか、そういうの嘘じゃないですか。
青春の通過点としての自発的だがおどおどしたセックスとか、普段使いのセックスを語っていかないと、そろそろ目が滑っちゃうなって思ってたんですよ。ちょうど。
『さびしすぎてレズ風俗に行きましたレポ』では、そもそも生きることそのものに罪悪感を感じている様子がうかがえますし、レズ風俗に行ったのも依存先を家族から性に置き換えただけかもしれません。
しかしセックスシーンに関しては罪悪感より好奇心と渇望が勝っており、人生の通過点として性を通っていました(この後、永田カビ先生はアルコール依存症になるのですがそれはまた別な話です・・・)
『T子の一発旅行』では、性へのてらい、後ろめたさもないし、世界はエロを中心に回っていません。ただT子だけが自発的にエロい世界で、T子はニコニコとセックスを謳歌します。
両作品ともがっちりエロシーンはあるし、明らかにエロを煽るコマ割りや演出が施されています。
しかしどちらも、誰かに引き出されたエロや、物語の都合上のサービスエロではありません。キャラクターたちが望んで欲したエロです。
それから「個人発表のネット上で人気」
これ、別に人気であることだけがイイと思っているわけじゃなくて、
個人発表のネット上で人気が出たってことは、商業ラインでまだ未着手な物語の系統で、かつニーズがあった物語系統だと思うんです。
だって売れる類型を見つけたら、わあー--っと商業で作られるはずですもの。そして作られていたら話題になるはずです。みんな読みたいのですから。
商業サイドが売れないと思って未着手なのか、扱いが難しいと思って未着手なのかは分かりません。
しかし個人作、個人編集の作品が売れ筋の商業ラインより読者の心をとらえることって、すごく時代を読んでるし、出るべくして出た作品だなって嬉しくなるんです。
『さびしすぎてレズ風俗に行きましたレポ』はピクシブ発で単行本の出版、さらに英訳されアメリカのコミック賞「ハーベイ賞」を受賞しています(ムチャクチャでかい賞ですよ!)。
『T子の一発旅行』はそもそも台湾のネット発であり、人気ぶりと台湾漫画の輸入ブームが相まって邦訳されて発売された漫画。
個人発、求められていた漫画。これって増えてほしいじゃないですか?
また3つ目の条件「女の子の描いてる漫画」は、圧倒的な当事者意識(=共感)です。
私たち読者は否応なく作品の持つ情報も読んでいます。つまり「誰が描いたか」も、漫画の付加価値として無視することはできません。
私たちはキャラクターと世界に作者情報を重ね、そこから自分の共感をより強める営みをします。
平たく言うと「女性の性は女性が描いている(と思った)方が共感できる」ということです。
ずいぶん冷たい言い方になってしまいましたが、女性が差別や抑圧への開放への連帯の気持ちを持てるのは、やはりキャラクターではなく作者、現実の人間の方が強いのは事実です。
素晴らしい女性賛歌を男性が描いてるんだあ、と思うより、生っぽくてしょうもない性を女性が描いてくれてるんだ~と思う方が感情移入できるってもんです。
個人発の漫画ならなおさら、売れ筋ラインや世論を気にすることなく、生身の魂をぶつけてくれたと思えてうれしい。
『さびしすぎてレズ風俗に行きましたレポ』も『T子の一発旅行』も作者は女性です。
もちろん、性別を偽ったりすることは可能なんですけどもね。でもそこは信じて、性というデッカイ個性からの慟哭や、朗らかな礼賛を共に楽しもうじゃあないですか。
4.まとめ。世界よ!もっとあけすけに女の子の性を語れ!
今回のエントリーでは、以下のことを解説しました。
- 『さびしすぎてレズ風俗に行きましたレポ』作品概要・感想
- 『T子の一発旅行』作品概要・感想
- 2つの作品の共通点と、その良さ
いやあ、『さびしすぎて~』を読んだ時も、『T子の一発旅行』を読んだ時も、双方衝撃だったんですよ。
エロっていいもんだねえ!と・・・
今、女性向けエロは扱いが難しいと思っています。
主体性のあるエロ表現は都合よく解釈され、女性蔑視の視点に転換されてしまうことすらあります。(例えばこの記事を読んで「女性はやっぱりエロが好き!ナンパもガンガンしよう!」とか発想する一部の方とかですね。ちなみにそういうのはT子が容赦なく即ブロします)
また商業の女性向けエロ漫画も、男性編集者の売れ筋目線を通して作られることも多いと聞きます。完全な女性主体のエロ漫画ってあるのかなあ・・・というのは思っていたのです。
そんな中、個人発信のエロが読者の心を深くとらえて、ネット上の海から単行本が発売される。
ドリ~~~ムだなあって嬉しく思います!
こんな漫画がたくさん増えてほしい。
エロはあけすけに語れ!個人は出版社を出し抜け!私たちは連帯せよ!
次にこのエントリーに加える漫画は何になるでしょう?楽しみです!