漫画のことと本のこと

漫画好きが読んだ漫画や本の感想を書くブログです。

『東京ヒゴロ』※漫画の感想〜老いて眠る前に、あの時諦めたことをやり直しに行こう〜

 

東京ヒゴロ
著者・松本大洋

 

去年からずっと業界高評価のこの漫画。

 

松本大洋のあたたかみのある絵はもちろんのこと、内容が「レジェンド漫画家たち、若い頃に妥協して描けなかったことに立ち返る」なので業界人気はそりゃあ高いだろうというもの。

 

そんな斜に構えた目で見なくとも、一時代を築いた人たちが忙しさと社会状況で妥協した後悔を、死ぬ前に取り戻しにいく・・・という、落ち着いた画風に染み渡るペーソスとアツさは漫画業界という特殊さを感じさせない普遍性。

 

で、

 

私は40代で、まだ老いが極まっていないのでこの作品のミソを味わえてはいないと思うんだけど、

 

それでも思うのは「やっぱ消費社会は大変だなあ」ってことで。

 

今の出版業界からしたら羨ましい、お金がじゃんじゃんあった頃の漫画家さんたちなんだけど、彼らもまた妥協を重ねて年を重ねてきた。

 

今の世代がPV至上主義でバズることキャッチーなことに振り回されているのと同様、彼らもまた一度売れたら期待を裏切れない圧力があったのだろうと。情報のスピードが今より遅い分余計に。

 

そのことを無責任だと言ってしまうのは簡単だけど、『失踪日記』の吾妻ひでおのように、忙しさで脳みそがぽーんと飛んでしまった人も多いと思う。

 

消費社会で、忙しなくせっつかれて人気を取れと失望させるなと言われ続けること、これもまた現代の貧しい出版事情とどっこいどっこい辛い状況だなあ、とは思う。