『RAIDEN-18』
『鋼の錬金術師』『アルスラーン戦記』などの荒川弘の連作短編集。
死者から作られし人造人間「雷電18号」と死体愛好家のタチバナ博士のドタバタコメディ。
15年の時をかけ描かれた短編をまとめたものながら、絵のブレのなさの実力にひるむ一冊。
さて、荒川弘は月刊サンデーGX2021年7月号でこうインタビューに答えている。
「“あの国”で鋼の(錬金術師)の海賊版がバンバン出てて、苦々しく思っていた頃です。だから“あの国”で海賊版を出せない話を作ろう、と思って作った話ですね。
出させねえ、出せないネタでいく、って出したのかな」
その話こそ、人民服を着た「毛沢東(けざわひがし)」がゾンビとして現れるという話であった。
荒川弘は中国圏でも人気の作家のため中国語でも話題になったようだが、このツイートまとめによるほどの「炎上」にはなっていないものと推測する。国際問題になっていればニュースなどにも取り上げられるはずだが、特にそのような報道はなかった。
この辺りの感覚は、荒川弘の出身が北海道農家であることも関係しているはずだ。
荒川弘のエッセイ漫画『百姓貴族』では、農家の実家と行政との軋轢などが赤裸々に描かれている。
また北海道の農業高校生活を描く『銀の匙 Silver Spoon』では、進路や生き方に悩む高校生の個人と、経営難による農家の離農などの社会問題が濃厚に絡んで表される。
権利や法律について、生活の面からシビアに見る作家であると推測する。
個の利益を守るために、エンターテインメントに昇華された剣である。
目下国交問題を抱える国への感情である。
ヘイトに転換される危険性も含みつつ、表現でのカウンターを賞賛したい。