自閉症の子を持った母親が母親を辞めていく様子を赤裸々に描いたエッセイコミック。
フリーライターの著者が自身の経験を原作として担当。
問題の要点の提示→失敗で構成されるロジカルな後悔。
発達の影響で社会生活に支障をきたすほど育てづらい娘に疲れ、離婚して家庭を放り出した母親の話。
通しで読んで思うのは「助けの不在」だ。
感覚過敏や予測不安で四六時中泣き続けるこども。終わりはない、休みはない、答えもない。そして「大根を切っていると意味もなく涙が出る」など、明らかに鬱の症状が出ている。
こどもの生きづらさに呼応して自身も鬱になる、それは自他境界線が引けていないということである。
では彼女はなぜ自他境界線を引せなかったのか?
夫も行政も友人も関わっていた。しかしその戸惑いがちな助けの手を振り払い、自分とこどもを追い込むように発達障害克服に埋没していく。
それは彼女が父と死別し、「普通の家庭」に強く憧れていたからだ。こどもに普通を与えたいと願うあまり、彼女はだんだん壊れていく。
普通になることなどできない、なぜなら普通などというものは存在しないからだ。
そんな当たり前のことを理解することができないほど、彼女は全てが見えなくなっていた。それは普通でなければ生きていけないという強迫観念的であり、その呪いに気づく余裕は、彼女に与えられなかったし、
日本社会は、「普通でないと生きていけない」は割と真なのだ。
彼女の願い、「普通の家庭が欲しい」と「こどもが普通でないと生きていけない」は、ここに見事に融合した。普通を手に入れることは自分の幸せでありこどもの幸せだ。
自他境界線は決壊している。それは彼女のせいなのか。日本の社会が普通を求め過ぎているからではないのか。