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『スーパーマン・スマッシュ・ザ・クラン 』書評~お子さんにもピッタリの明るく正しいスーパーマン~

 

 

原作:ジーン・ルエル・ヤン
作画:グリヒル
翻訳:吉川悠

 

2020年ハーベイ賞ヤングアダルト部門受賞。
チャイナタウンからメトロポリスに引っ越してきたチャイニーズ・ロベルタとトミー。スーパーマンと共に秘密結社クランを倒す!

 

1946年のスーパーマンの連作ラジオドラマを元にリブートした本作。


当時のクー・クラックス・クランの蔓延に恐怖を覚えたユダヤアメリカ人のスーパーマン・インクの社長が企画し実現した。

 

本作のスーパーマンは「クリプトン星出身の超マイノリティ」の苦悩が強調される。

 

本作のスーパーマンはクローゼットなマイノリティである。

 

制御不能なスーパーパワーを持ち、他者との差異に悩む幼き日のクラーク(スーパーマン)。


長じても自分のルーツを否定し、外見通りのアメリカ市民であると生みの父母と決別する。

 

しかし時を経て父母が、クリプトン星人であると同時に新しい故郷を作ることを願っていたことを知る。

 

その経験があるが故、白人至上主義者から

「人種も歴史も共有することが絆だ、絆なくして国家は保てない」

 

と言われたことに対し

 

「我々は未来を共有している、償いさえすればお前も」

 

と返すことができる。

 

中国人のリー兄弟がメトロポリスで加入した野球チームの練習場は、牧師と神父とラビの共同設立、つまりプロテスタントカトリックユダヤの指導者が手を取り合っている設定。黒人刑事、女性記者への軽視なども盛り込まれている。

 

原作者は中国系アメリカ人、作画は日本人ユニットであることも意味を持っているだろう。

 

 

 

 

秘密結社クランは高らかに宣言する。

 

「人種は一つ!
肌の色は一つ!
真の神はただ一人!」

 

それは全体主義である。
彼は異なる者を認めない。異なる者を排除する。

 

スーパーマンは「異なる者」として差別主義者と対峙する。

 

同じモノと認められ、配下に下る事など不要。
別なモノとして、同じアメリカ市民でいる事が願い。

 

異なる事が大前提にある。我々に境界線を、そして未来を共にせよ。

 

ローティーン向けのスーパーマン
アメコミの人気作画ユニットグリヒルのクリーンな絵も読みやすい。
当然エログロもなし。

今回書いたラジオドラマのことや当時の時代背景は巻末の12ページにわたる資料にたっぷりと掲載されている。

明るく正しいスーパーマンとしてお子さんにもおすすめ。