全10巻。大きく1〜7巻までが被爆体験、8巻〜10巻が戦後風俗及び戦後社会情勢が絡んだ内容。
被曝体験のディテールは極めて細かい。特に7巻の作中小説『夏のおわり』にまとめられている。
「黒い衣服を着た人はヤケドがひどかった
ふくしゃ熱で服の柄が肉体に焼き付くほど焼けこげていました」
8巻以降では広島の路面電車からはみ出すように乗る乗客や三輪の自動車、キャラクターが口ずさむ流行歌、もんぺを着用する女性など、文化史としても見応えがある。
ヒロポン(覚醒剤)の流行、戦争孤児のヤクザ化、朝鮮人の医療差別。
身近な人の、たくさんの死。
よくもこれだけ事件がある、何回山を作っても悲劇が途切れない。
そんな中、ゲンは強く明るい。ケンカに負けることはないし、甘いものを食べた時におどけて喜ぶ。何回好きな人が死んでも。
悲劇と批判、生への渇望が凄まじいエネルギーを生んだ。
特に政治と批判については感動した。
なんの忖度もなく、極めて自由な、誤魔化しもない戦争責任の追求。
私は戦争マンガをいくつか読んだけれど、それら全て、「一枚何かを」かませていた。それは芸術とも呼べるし、真っ向からぶつかるのを避けたとも言える。
それは理解する、そうでなければ出版できるかわからないのがこの国だから。
しかし『はだしのゲン』はストレートでシンプルだ。可愛い絵でソフトにしたり、個人の生活に矮小化したり、ファンタジーを織り交ぜて物語化しない。
ただただ真っ向から平たい言葉で「こんなことをしてはいけない」と吹き出しにセリフで書いてある。
図書館の自由に関する宣言ではこのような一文がある。
>すなわち知る自由を保障することである。図書館は、まさにこのことに責任を負う機関である
『はだしのゲン』を通して知る自由があり、権利がある。
図書館に置かれるべきであり、教科書に載せられるべき作品だ。