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『あなたはブンちゃんの恋』感想~依存して干渉しあう、激烈な痛みの恋。ある意味でジェンダーレス恋愛の極北~

 

こんにちは、エンタメには痛みを求めたくなるほど平和な毎日を送っております。

 

というわけで、本日は心から血が噴き出すような恋愛マンガをご紹介しますね。

 

恋も、依存も、嫌悪感も、自己否定も特盛。

 

それでも恋しないわけにはいかないんだろうな、と脳みそを叩き割られるような漫画です。

 

そしてあまりに強い負のパワーの前に、ジェンダー観とか軽く吹き飛ぶ凄みを感じます。

 

 

あらすじと感想をご紹介します。

 

 

『あなたはブンちゃんの恋』

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『あなたはブンちゃんの恋』宮崎 夏次系 講談社 より引用

 

 

【あらすじ】

 

ブンちゃんはクマのぬいぐるみパスケースをバッグにつけた、かわいい女の子。

 

ブンちゃんは幼馴染の女の子、三舟さんが好き。

 

ブンちゃんと三舟さんは毎年、昔死んでしまったシモジのお墓参りに行く。

 

ブンちゃんのパスケースには、死んだシモジが宿っている。

 

三舟さんはシモジが好き。

 

ブンちゃんは苦しむ。

三舟さんを諦めたくて、忘れたくて、色んなことをする。

でも三舟さんが好き。

 

シモジは苦しむブンちゃんが好き。

 

 

三人はいつまでもともだち。

そしてみんな苦しむ。

 

 

依存なのか恋なのか。苦しみを捨てようともがく女の子と、冷たい観察者と、1人で変わっていってしまう女の子の激痛三角関係。

 

【感想】

痛すぎる恋愛の前では属性など軽く吹き飛ぶ。

 

ブンちゃんは端的に言って「イタイ」女の子。しかも超特級の。

 

三舟さんへの恋愛と依存心を区別できていないし、自分が苦しいからってバイト先の同僚に疑似恋愛を持ちかけて利用しようとするし、救いを求めて突然グリーンランド(!)に旅行に行ったりする。

 

その結果、三舟さんのことも大いに傷つけるし、バイト先の同僚の恋心も踏みにじるし(マジでヒデエんだ)、遠くグリーンランドでも人に迷惑をかける。

 

 

でも一番厄介なのは、ブンちゃんが自分がイタイことを完全に理解していること。

 

だからブンちゃんは「自分を壊す」ために努力する。あまりに苦しいから自分を壊したり、自分の恋心を壊したりするためにいろんなことにトライする。

 

それでもブンちゃんは三舟さんが好きであることがやめられない。

 

そんなブンちゃんに冷酷な合いの手を入れるシモジの霊。彼も恋の三角関係の一端であって。

 

また、三舟さんも変わる。一見明るく見える彼女も、壮大な依存心を抱えている。

 

三人は、誰かが変わることを許さない。

 

全員、現状のまま苦しんでいないと許されない。

 

しんどい・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

 

 

 

 

と、まあ、すさまじくしんどい恋愛のマンガではあるのですが。

 

 

野暮なこととは思いますが、ブンちゃんは女の子、三舟さんも女の子、改めて確認するとこの漫画は同性愛です。

 

でもなんつうか、同性の恋愛だからどう、っていう感覚が一ミリたりとも起こらないんですね。ブンちゃんたちの負のパワーが強すぎて。

 

幼馴染の三人のうち一人が死んで、残りの子の女子が女子に片思い。これだけで1作品きっちり描ける題材です。

 

でもそのテーマは前座に過ぎません。

テーマ、というかこの漫画のだいご味は「登場人物全員が濃厚に依存しあい、メインの子が『あの手この手で自分を壊す』ことを眺める」という・・・

 

このエグみの前に、属性のことなどすっかり忘れてただ震えるばかりです。

 

 

ある意味でジェンダー恋愛のナチュラルな形と言えばそう・・・なのかもしれない。

 

 

 

 

エグイ、つらい、しんどい。

そんなジェンダーレス恋愛マンガ。

とてつもなく重く、冷酷で、それが面白いんだから漫画ってのはすごいものです・・・・・

 

ところで今更ですが、霊が三角関係に混ざってくるファンタジーでもあります。

でももうそんなこと気に掛ける余裕はありません。エピソードひとつひとつが致死量。瀕死ですから霊がどうとか些末なことです。これもまた『あなたはブンちゃんの恋』の凄み。

 

 

 

『さびしすぎてレズ風俗に行きました』紹介~ハーベイ賞受賞の「生と性の交わるところ」を痛みを隠さず描く漫画~

こんばんは、大好きな『チェンソーマン』がハーベイ賞を受賞して嬉しい!中山今です。


ハーベイ賞とは、アメリカでもっとも権威あるコミック賞のひとつ。

その中でも「bestmanga賞」は「邦訳された日本漫画」というくくりの賞で、アメリカの賞でありながら実質日本の漫画賞ともいえる状態になっています。

 

今まで、『とんがり帽子のアトリエ』など知名度も実力も作品が受賞してきたこの賞ですが、実は2018年に受賞した作品はあまり知られていないかもしれない。

 

その名こそ『さびしすぎてレズ風俗に行きました』。

 

今回はこの作品をご紹介します。

 

痛くて、途上で、それでも生きることをあきらめない。あまりにも痛々しい生と性の渇望のレポ漫画です。

 

あらすじと見どころをご紹介します。

 

『さびしすぎてレズ風俗に行きました』

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『さびしすぎてレズ風俗に行きました』 永田カビ 株式会社イースト・プレスより引用

 

 

【あらすじ】

エッセイ&レポ漫画。

主人公は作者である永田カビ本人をモデルとしている。(このため以下作中キャラを表す時は「永田カビ」、現実のクリエイターを表するときには「永田先生」と記載します)

 

永田カビはメンヘラの引きこもり。

 

摂食障害、鬱、社会不適合、「死んだ方がまし」な状態にあるアラサーの永田カビ。

 

「自分には食べる権利がない」と思い込んで摂食障害に陥り、「無条件で認めてくれる人」を職場に求めて首にされる。

 

その恐るべき思考のゆがみは多分に家庭環境によるもので、どこからどう切り取っても毒親の両親と仲の悪い祖母の4人暮らし。

 

楽しい高校生活を終え、美大を中退、社会不適合者として家族から(そして内なる自分から)責められ続ける永田カビは、体が動かなくなって「どう考えても死んだ方が楽」というほど追い詰められた。

 

しかし永田カビは「意外にも悔しかった」。

 

ここから「生きるためにレズ風俗に行く」という斜め方向の戦いが始まる。

 

 

【感想】

痛いッ

 

しかし前向きだッッ・・・・!

 

 

あらすじでも書きましたがもう物語はイタタタのイタタ。

 

現在心を病んでいる人や毒親に悩んでいる人は見ない方がいいレベル。

 

メンタル系に悩むレポ漫画はたくさんありますが、ハーベイ賞受賞に至るために3つほど要因があったと思います。

 

それが以下です。

 

  1. 痛みにやみくもに向かうヤケっぱちな前向き感
  2. 繊細かつ大胆な表現
  3. ピクシブのバズり

 

まず、「痛みにやみくもに向かうヤケっぱちな前向き感」

 

本人モデルのメンタル系漫画は痛いです。

失踪日記』も『アル中ワンダーランド』も辛くて痛くてたまらない。

 

特にまだ寛解(完治する病気ではないがひとまず正常機能が戻った状態)していない状態だと、本が出た後にさらに悪化した近況が聞こえてきたりしてとてもつらいです。

 

『さびしすぎてレズ風俗に行きました』がどうかと言えば・・・

実際、本作の次回作などでも寛解しておらず、常にぐらぐらとした不安定な状態を続けています。

 

↓次回作でも酒浸りになり、非常に危うい状態です

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『一人交換日記』 永田カビ イースト・プレス より引用

 

しかしながら、「繊細かつ大胆な表現」がただの痛みだけでない「生への渇望」をたたき出します。

 

これは見ていただいた方が早いですね。例えば私が本作で一番好きなシーンですが・・・↓

 

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『さびしすぎてレズ風俗に行きました』 永田カビ 株式会社イースト・プレスより引用

 

自分が生に対して絶望していること、そして性に対して一般的でない感覚を持っていること、それらを踏まえながらまさかの「ぱんつ絵」を出してくるこの大胆さよ!

 

突然の突拍子もない表現は、ただ暗く湿っているだけではない、(前向きな)やけっぱちのあがきを感じます。

 

絵も適度な抜き加減がありつつ、少しのノスタルジーと2色刷りの軽さがいい感じで軽さを演出していて。

 

 

 

 

物語の激重ぶり、表現の軽やかさを伴って起こったのがピクシブのバズり」です。

 

これはまさに『さびしすぎてレズ風俗に行きました』にも描いてあるエピソードです。

永田カビは絶望の淵でレズ風俗レポをピクシブに載せ、大バズを経験します。

 

現実問題、このバズがあっての出版化、ハーベイ賞受賞であることは疑いようがありません。

 

ピクシブというニッチな場で大バズするほどの表現であったし、それがアメリカにも受け入れられた・・・ということなのでしょう。

 

 

 

 

 

永田先生の環境は(作中の表現をそのまま受け取るなら)詰みと言ってもさしつかえないレベルのヤバさです。

よくそこから「自分が女体に興味がありそうだからレズ風俗に行く」という思い切りができ、そして「それを漫画化する」というところまで行き着いたなと感動する次第です。

 

 

痛みは隠されていません。そして今も進行形です。

 

しかしそのうえで、なんとか生き延びようとあがくことを軽い絵で描き出しています。

 

もし精神状況に余裕があるようならオススメなんです。

 

私はこんなに生きよう、生きようとほとばしらせている漫画、あんまり見たことないです。

 

 

『3月のライオン』16巻感想~エヴァのように大人になった、死にに行かない強さ~

こんにちは、『3月のライオン』のアツさが大好きなマンガライター、中山今です。

 

今回は『3月のライオン』16巻の感想を書きたいと思いますー

 

なんていうか、もうあのアツさは帰ってこないのかもしれないけど、それもいいかなあとか思ったりして。

 

改めてざっくりした『3月のライオン』全体のあらすじと、

16巻の感想をご紹介します。

 

 

3月のライオン』16巻

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3月のライオン』16巻 羽海野チカ 白泉社より引用

 

【あらすじ】

 

孤独な天才少年棋士、桐山零。

 

脳をフル稼働させる将棋は、一度の試合で2~3キロ痩せることもあり得るほどの灰カロリーバトル。

 

また、足元がガラガラと崩れ落ちるような、死を意識するような孤独でヒリついた戦いでもある。

 

過剰な戦いをひとりで重ねる零は、いつしか浅草の和菓子屋の姉妹3人との縁を持つ。

 

そこで触れるあたたかな生活は、零の心に小さな明かりをともす。

 

その明かりを胸に、更なる将棋の深淵へ降りていく棋士の物語。

 

 

【16巻感想】

 

死にに行っていないな・・・・と思う。それは、良いこと・・・

 

16巻はとにかく温かい。

 

零はひなちゃんとあたたかなココアを飲み、棋士仲間と切磋琢磨し、誰も切迫感を出さない。

 

合間に挿入される宗谷名人の実家エピソードも(よく考えると悲惨だけれど)、ほっこりあたたかな新キャラとお話で誰も傷つかない。

 

思い立ってその前の巻、15巻を読み返してみたのだけど、もうまったく全然違った。

 

15巻に多用される「試合中に息が詰まる、おぼれる」といった閉塞感のイメージ、「暗い部屋に飲み込まれる」といった不安と自己の喪失のイメージ。

 

そのマイナスな状況を、あがいてあがいてもがいてもがいて、血にまみれながら浮上する。今日浮けても明日はわからない、圧倒的なヒリヒリ感。それが私の『3月のライオン』のイメージ。

 

16巻は、そのイメージを覆すものでした。

 

でもなんか、私思ったんです。

 

これって大人になったんじゃないかなって・・・

 

私事ですが、最近「1960年代スポ根ブーム」を勉強する機会がありました。

 

特に『あしたのジョー』『巨人の星』といった梶原一騎原作作品を読み、関連資料を読みました。

あれは高度成長期の純文学で、体を痛めつけ、プライドと共に死ななければいけない物語でした。

 

それはニヒリズムをはらんだムチャクチャかっこいいものではあります。

 

しかし同時に未来のない、死にに行くだけの物語でもあります。

 

3月のライオン』16巻はその選択をしなかった。

 

桐山零は幸福を知り、死ぬためではなく生きるために棋士をしている。

 

そういう描写だなあと思いました。

 

最近なんか見たことあるぞ、と思ったら、これ『シン・エヴァンゲリオン劇場版』観た時と似てます。

 

エヴァでも20年にわたる劇場版で、一時期はきっと監督自体が死にたい、苦しくて仕方がない映画に仕上がっていました。

 

でも2021年公開の『シン・エヴァンゲリオン劇場版』で、各登場人物たちは全員がそれなりの納得感のある妥協点を見出し、後ろを振り向かずに去っていきました。

 

前向きで明るい、生きるためのエンドで、非常に良いものを観たなあと思っています。

 

で、『3月のライオン』に話を戻すと、「死ぬほど悩んで戦って、いつでも死が背中に迫ってる」みたいな切迫感の出し方、エヴァみたいにもうやめたのかもしれないなって思って。

 

それは間違いなく『3月のライオン』のアツさだったけど、ひょっとしたらもう戻ってこないんじゃないかなとか。

 

でも私個人はそれでいい気がしています。

 

死ぬのはよそう、死ぬのは。やっぱ生きた方がいい。ウン。

 

 

 

 

あと作品とは関係ないところですが、ひょっとしたらコロナ禍も関係しているかもしれませんね。

 

世界的な危機感と停滞ムード。

 

それは気分のいいものではありませんでしたけど、人によってはお休みになったのかもしれません。

 

将棋で死なんでも、コロナで死ぬかもしれない。

 

人間、1960年代みたいな上り調子の社会情勢より、今みたいな経済的にも物理的にも死の可能性がある方が、死にに行かないコンテンツになるのかもしれない。

 

 

今回はなんとなく、思ったところを書いてみました。

 

17巻以降はどうなるのかな。次巻が待ち遠しいです。

 

『腸よ鼻よ』5巻感想~潰瘍性大腸炎闘病記。国家指定の難病&人工肛門になってなお、これほど陽の気を放つ漫画家を私はまだ知らない~

こんばんは、おなかがちょっと弱めなこと以外はたいてい健康な中山です。

 

今回は「おなか痛い」の中でも最強クラス、国家指定の難病「潰瘍性大腸炎」(元首相もそうだったやつ)を患った超ポジティブ漫画をご紹介します。

 

 

自分の人工肛門で笑いを取る、あまりにもおおらかな闘病漫画は暗さが1ミリもないッ

 

 

あらすじと感想をご紹介します。

 

『腸よ鼻よ』

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『腸よ鼻よ』5巻 島袋全優 株式会社KADOKAWA より引用

 

 

【あらすじ】

 

島袋全優、沖縄出身の漫画家志望の少女。

 

マンガ養成スクールに通いながら、学費のアルバイトに精を出す日々。

 

あまりのハードワークに、最近トイレに行くと血が出てるけどまだまだ平気!

ごはんを食べたら吐いちゃうけどこれからバイトー☆

 

というノリの果て、限界状態で通院したらそのあとが人生ジェットコースター!

 

  1. 難病通告
  2. 漫画家デビュー
  3. 入院しながら原稿
  4. 大腸切除、人工肛門デビュー

 

あまりにも破天荒な一人の漫画家の10代後半の闘病記。

 

【感想】

 

とにかく明るい・・・ッ!

 

舞台はほとんど病院。

 

マンガ編集部にその才能を見出された全優先生は、原稿のやり取りをしながらもその実態は病院のベッドで点滴につながれている。

 

これだけ聞けばどれほどまでに苦難の生を・・・とうっかり涙しそうになるも、全優先生はとにかく明るい。

 

そもそも、本作は闘病エッセイではなくギャグマンガ

 

ベースは全優先生の闘病実話なものの、ところどころに創作ギャグが挿入されています。

 

特にお世話になっている医療関係者、そして仕事相手の漫画編集者のキャラを特濃に設定。

 

挙動不審のイケメンヤブ医者やシルエットがエヴァンゲリオン(?)の編集者など、難病持ちの全優先生に負けぬ濃いキャラが自己主張してギャグが渋滞気味。

 

決して自虐や強がりではなく、全優先生には世界がこう見えてるのかなと思うような・・・アッパーな世界観に浸れます。

 

闘病モノの漫画って結構好きで、『失踪日記』『さよならタマちゃん』『人間仮免中』『うつヌケ』などなど、色々読んできたつもりですが・・・

 

これほどの陽の気を放つ闘病モノはなかなかお目にかかれません。人工肛門なのに!

 

 

とはいえ、この度新刊が出た5巻では大腸を切除、大腸壊死の危機に見舞われ、(本人ではなく)家族がガン泣きするシーンも垣間見えます。

 

それでも人工肛門ストーマ)のやり方を教えてくれる看護師は、なんか変なお面かぶってるしテンションおかしいし・・・

 

難病モノで、感動の涙じゃなく「元気になれる」という・・・謎の読後感をぜひ。

 

(あと腸に優しいレシピがいたるところに載っているので、腸が弱いヒトにもおすすめだよ)

『あしたのジョー』の葉子さん論~もっとやれ葉子さん!あなたは美しくて傲慢な首謀者~

 

こんにちは漫画ライターの中山今(女)です。

 

本日はようやく履修しました『あしたのジョー』を、フェミニズム視点・・・というか葉子さんについて語りたいと。

 

まあ正直およびじゃないっていうか、せっかくの男だけの世界の漫画にまさに「しゃしゃり出る女」で大変申し訳ねえ。

 

でも思っちゃったから書きます。これが表現の自由

 

というか、ちばてつや先生の表現力のおかげじゃないか、という気もするのだけど。

 

葉子さんのコマで一つ、むちゃくちゃ好きなコマがあったよ、って話。

 

あしたのジョー

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高森朝雄(原作)ちばてつや(画) 講談社 より引用
【あらすじ】

1960年代にドヤ街にフラっと現れた少年、矢吹丈(ジョー)。

 

親はなく、心は荒み、そして喧嘩だけは猛烈に強かった。

 

ドヤ街の酔っ払い、丹下はジョーの腕に惚れた。

 

丹下は元プロボクサーであり、現在はすっかり落ちぶれていた。

 

しかし彼の眼は見抜いていた。ジョーのボクシングの才覚を・・・

 

ジョーの型破りな魅力。少年院に入り、自暴自棄ともとれる行動を繰り返しながらも最後には必ずリングに立つ闘志。

 

そして力石、カーロス、金、ハリマオ、ホセといった多種多様な敵たち。

 

高度成長期に熱狂を以て迎えられた、伝説のボクシング漫画。

 

【葉子さんのこと】

 

で・・・・

 

あらすじでまったく触れていないけれど、とても重要なキャラクター「白木葉子」について、今回は語りたいと。

 

葉子さんは白木財閥のお嬢様。

 

ジョーが15歳のころ、悪さして少年院にぶち込まれていた時に慰問訪問してきたのが葉子さん。

 

はっきり言っていけすかない少女で、芝居の上とは言え丹下のおっちゃんを血まみれにしばきたおすなど人権感覚が希薄。

 

その上ジョーに「偽善」と煽られて(図星)、どうもそのころからちょっとした関係っぽい少年院のボクシング強者、力石を立ててジョーとの試合を組む。

 

私情を隠さないくせに権力もフルに使う、かなりヤバい少女である。

 

成長してからも、おじいさまのボクシングジム、白木ジムを突然乗っ取り会長になったり、テレビ局各局を脅して「ジョーVS今から探すボクサー」というむちゃくちゃな試合を企てたりとやりたい放題。

 

 

ジョーじゃなくても「(お前みたいな女)しゃしゃり出てくるな」と言いたくなるような振り回しっぷり。

 

でも、私は葉子さんのことがすごい好きだ。

 

このコマで大好きになった↓

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あしたのジョー講談社漫画文庫8巻 高森朝雄/ちばてつや 講談社 より引用

 

この横長のコマ使い、背景なしでの吹き出し2つに分けた独白。

 

なんてかっこいい・・・・!

 

このシーンは、ジョーVSカーロス戦にて血しぶきの舞う激しい戦いが繰り広げられていたリング脇。

 

カーロスは「無冠の帝王」と謳われた力石以来のジョーのライバル。その実力差は大きく開いており、試合は「矢吹ジョーを公開殺人」というゲスな触れ込みでチケットが売れに売れている。

 

歴々たるプロモーター(壮年以上の男性)を差し置いて、この狂気的な試合を組んだ葉子さんは自身のことを「悪魔かもしれない」と自問する。

 

矢吹ジョーを死に至らしめるかもしれない、また人間の狂気を金に換えている悪魔であるかもしれないと。

 

案の定血みどろのボクシング。葉子さんは惨状におじけづきながらも、自らの責任を誰かに擦り付けることなく引き取ろうとするのがこのセリフです。

 

 

 

 

私は当然、『あしたのジョー』を男と男の1960年代ドラマ(高度成長期のスポ根)として読んでいるわけで、葉子さんはノーマークだったわけです。

 

高慢ちきなお嬢様でありつつ、責任から逃れない威風堂々たるたたずまい。

 

そしてその横顔が美しいのはちばてつや先生の描画の為せる技・・・!

 

今回『あしたのジョー』を一気読みしたのですが葉子さんの魅力にぞっこん。

 

高度成長期、財閥令嬢としての矜持。あなたは高慢ちきでそして美しい。 

 

もっとやれ葉子さん。ジョーに一泡吹かせてるのは、実はあなたしかいないんだ。

 

 

 

と言いつつ・・・

 

物語の最後、ジョーが死にに行く試合を止める際、葉子さんはジョーに告白します。

 

って力石はーーーーーーーー!?

 

いやまあいいんだけど。誰を好きになっても。

 

確かにまあコレだけ長期間にわたりジョーに粘着してたの、何かしら好意はあると思うんだけどッッ

 

葉子さん、私はその辺はジョーという才能を殺したくない、「プロモーターとしての打算も大いにある」と受け取っておくよ・・・!

 

 

 

えーととにかく私はあのコマの葉子さんが大好き。

あの美しい首謀者が大好き。

『邦キチ!映子さん』season6感想~40代による40代のためのエヴァ映画プレゼン漫画+読み切りも庵野監督関係~

トンチキ邦画紹介漫画の最新刊の感想ですー

 

今回のseason6、大傑作2021年公開エヴァの話題が特に面白くてサイコーなのでした。

特に40代に刺さる仕上がり。

なお筆者の年齢もぴったり40で、今回の記事は主観にあふれ切っていることを宣言しておきます。

 

30代~40代の少年たち、神話になれ・・・!

 

あらすじと感想をご紹介します。

 

『邦キチ!映子さん』season6f:id:ima-nakayama:20210928155002j:image

 

【あらすじ】

とある高校にある「映画について語る若人の部」。

 

アメコミ経由・ミーハー映画好きの部長と、部員の邦吉映子、邦画大好き女子高生通称「邦キチ」。

 

どんなトンチキな邦画も、邦キチの手にかかればさらにトンチキな映画としてオススメされる・・・!

 

 

邦キチの邦画愛はとどまるところを知らず、どんな過去のマニアックな作品も長所を見つけてプレゼン!プレゼン!

 

 

業界初、邦画専門プレゼン漫画!

 

【感想】

 

収録の11エピソード中、3話+読み切りがエヴァ関係のseason6。

 

それが非常に良かったのでご紹介したい。

 

と言いますのも、今回はうだつのあがらない40歳の教師「江波(えなみ)」が主役だから・・・!

 

江波は高校の頃、エヴァンゲリオン研究会に所属していた40男。

 

当時のエヴァ研の部員でありあこがれの先輩、中峠先輩と20年間「劇場版エヴァを観る」という関係性を繰り返しています。

 

これ、リアルタイムでエヴァの劇場版を追っている30後半~40代なら分かると思うんですが非常に長いスパンなんです!その上、意中の人と劇場版を観るなんて恐ろしすぎる!

 

20年もの間ときおり公開され、期待度に満ち、そして観た後に難解すぎて無言になって解散する感じ、あの感じを繰り返している40男、それが江波です。

 

 

「劇場版エヴァを語るなら40代出さなきゃ始まらないだろ」という熱い思いを感じます。

 

そう、今回ばかりは本作の主役・邦キチもわき役。

 

40代による40代のためのエヴァエピソード漫画。それが今回の邦キチエヴァ回!

 

3回構成で見ごたえたっぷり。+読み切りも庵野監督関係で、エヴァ好き&庵野監督好きなら見て損なし。できれば30代後半~40代だと最高。

 

 

今まで読んだことが無くても特に問題なし。もし気になった方はぜひ!(特に読み切りの庵野監督のアレ、邦キチのいつもの「お前本当に高校生かよ」というマニアックなチョイスでたまらんですよ)

 

『青野くんに触りたいから死にたい』紹介~ミッドサマー好き?じゃあ「同一化する恐怖と快楽」もどうぞ~

ミッドサマーのディレクターズカット版が公開されましたねー

 

そのためTwitterでもミッドでサマーな話題が盛りだくさん。

 

私も先日、ディレクターズカットじゃないバージョンを観ましたが実に良い・・・

ダニーの訴えるような泣き声が笑顔に変わるのはある意味で幸福であるとすら感じました。

 

ホラーとしてもおぞましく、特に欧米文明文脈における「科学的文明・個の確立」の世界に生きている人たちにとって土着信仰・個の破壊はとてつもない恐怖だったのではないかなと。

 

そこでこの機会に、ジャパンマンガからオカルティック&個の侵食がテーマの『青野くんに触りたいから死にたい』をご紹介します。

 

怖いんだよオ、でもね、美しくて・・・

そして、「それって不幸だっけ・・・?」と困惑するんだよオ・・・

 

【あらすじ】と 【オカルト部分・個の侵食】についてご紹介します。

※ちょっとネタバレ、っていうかオカルト部分を解き明かすミステリでもあるので、もし興味があるならすぐ読んできてもらった方が良いです!

 

 

青野くんに触りたいから死にたい

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青野くんに触りたいから死にたい椎名うみ 講談社 より引用
【あらすじ】

 

優里ちゃんは明るいけれどコミュ障な女の子。

隣のクラスの青野くんに一目ぼれして告白。無事付き合うことに。

 

でも、すぐに青野くんは交通事故で死んでしまいます。

 

自分が死ねば青野くんに会えると思った優里ちゃん。カッターを手首に押し当てたとき、青野くんが幽霊になって止めに来ます。

 

幽霊でも青野くんがいればいい、青野くんと話せて幸せ。

 

優里ちゃんの純粋すぎる想いを、青野くんは受け止めます。

 

しかし青野くんは次第に、優里ちゃんの体を蝕む悪霊に変化していきます・・・

 

 

軽めのラブコメのように始まる本作。

 

次第に土着の伝承や精神への侵食など、まったく洒落にならないホラーが展開されます。

 
【オカルト部分・個の侵食】

 

まず、オカルト部分について。

 

交通事故から幽霊として優里ちゃんの元へ戻ってきた青野くんですが、彼が戻ってきたのはきちんと因果関係があってのこと。

 

捧げた「生贄」、これからさらに求める「犠牲」、そして数人の子どもたちが手に傷をつけて行う「儀式」

 

町に伝わる都市伝説、「四つ首様」の言い伝えをもとに、幻とも幻想ともつかぬ人たちが山道に長く連なる「行進」。蛇の首を落とす儀式。

 

まだ連載中で、青野くんの真意ははっきりしていません。

 

ただひとつ分かっているのは、青野くんは優里ちゃんの体を狙い、少しづつ命を奪っていること。

 

優里ちゃんが許すたび、青野くんは優里ちゃんの目の色素を、髪の色を奪い、優里ちゃんは吐血しじわじわと弱っていきます。

 

これは優里ちゃんとこの世の物理法則以上の理の上で契約をし、優里ちゃんを供物として奪っていっているのです。

 

・・・どうでしょう、オカルティックな部分、イメージできましたでしょうか。

 

 

そして「じゃあ優里ちゃんはなぜ青野くんに捧げてしまうのか?(許さなければええやないかい)」という疑問にもアンサーがあります。

 

それが「個の侵食」です。

 

優里ちゃんは極めてコミュニケーション能力に問題のある少女です。

 

明るい少女なのですが、物語が進行すると優里ちゃんが家族から虐待を受けていることが明らかになります。

 

それは蹴る、殴るといった分かりやすい身体的暴力ではありません。

 

「嫌なことを本人のせいだと思い込ませる」「他人(姉)の辛さを優里ちゃんで解消させる」といった精神的な暴力です。

 

優里ちゃんは素直ないい子ですが、こういった家庭環境のため自己愛が育っていません。

 

そのため、青野くんに体を奪われていくことを「愛」だと勘違いしています。

 

自分の体に侵食され、奪われていくことを、恍惚とした快楽として認識しています。

 

ではそれが不幸なことか?と言えば、「自分に侵食してくるくせにひどい扱いをする家族」や「距離感がつかめない優里ちゃんをバカにしてくるクラスメイト」よりは、「奪うけれど優しい青野くん」の方が、優里ちゃんには良いヒトなのです。

 

『ミッドサマー』でも、ダニーのことを幸福か不幸かを断じることは難しいと思います。

恋人のクリスチャンや一緒に来た友人たちは供物にされ、ダニーも元の世界に戻ることは許されないでしょう。

 

しかしではそれは不幸でしょうか。

家族はダニーを顧みず死んでいき、恋人はダニーのことをうっとおしがり、理解するそぶりすらない。

でもホルガにいれば、村の女たちと感情を共有し、悲しみを理解してもらえます。

文明社会の生活から考える幸せではありませんが、ダニーは映画のラストで微笑みます。

 

青野くんに触りたいから死にたい』でも、優里ちゃんは家族から個の尊厳を侵されているため、青野くんに体を奪われることを否としていません。

 

むしろ優里ちゃんは、青野くんに体を蝕まれているとき、幸福そうに見えるのです・・・

 

 

 

どうでしょう!どうでしょう!ミッドサマーが面白かった皆様!

青野くんに触りたいから死にたい』読みたくなったのでは!

 

しかしながらご注意いただきたいのがムチャクチャ怖いことです。

私は特に怖いのが苦手なたちではあるんですが、グロなしの和のぬめっとした怖さに新刊を読めば数日は悪夢にうなされ、話題にすればストレスで耳鳴りがする(マジ)ほど。

 

そんなに怖いならやめりゃいいのに・・・と思われると思われるんですが、人物描写の巧みさ・そして優里ちゃんの切ないほどの思いの強さに惹かれてまた読んでしまうわけです(ちなみに今も怖くて背中が怖い)。

 

なお、kindleなら1巻が無料みたいです(今度ドラマ化するからかな)。

巻を追うほどに面白く(&怖く)なってきますが、興味があれば1巻からお試ししてみてください!

 

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(それにしても私の怖がりは異常なので、多分ふつうの人ならもう少し平気だと思いますよ・・・)