漫画のことと本のこと

漫画好きが読んだ漫画や本の感想を書くブログです。

3/18週に読んだ漫画感想(漫画6件、本1件)

その日読んだ漫画や本の雑感をまとめておくエントリです。

 

リンク切れや無料期間公開終了などご容赦くださいませ。

 

本日は漫画6件、本1件の感想です。

 

 

【comics】

『テロール教授の怪しい授業』

comic-days.com

 4月、とある大学の新入生として校門をくぐった佐藤は、カルトサークルの勧誘をされていたところを「テロール教授」に救われる。教授のゼミの説明を受け、騙されやすい自分が変われるチャンスかもしれないとゼミを受講し始めた途端、教授は「テロリスト予備軍」としてゼミ生を一喝した!?「迷える騙されやすい奴」に施される「反テロリストレクチャー」!騙されないためにはどうしたら?教えて!テロール教授!

 

 「教えて!テロール教授!」・・・とかって書いた瞬間にテロール教授に「バカですねーーーーーー!!!!」って声高く罵られること請け合い、パワハラ教授テロール教授のテロうんちく漫画。豊富なテロの事例やその手口をゼミの形式でバシバシ叩き込む、知的興奮マンガです。

 

 結論から申し上げておきますと、テロール教授の考える「騙されない方法」とは「健全な批判的精神を持ち、他者を信じることと物事を疑うことのバランスを保つことが、迂遠ながらも適切」という、極めてまっとうな話をしています。めちゃくちゃまっとうですな。

 権威を信じすぎず疑い過ぎるな。自分の頭で考えろ。なので、テロール教授が言ったことを一言一句トレースなんかしようものなら教授が「バカですねーーーーーー」って言ってきますよ。そういうマンガです。

 とてつもなく高圧的で断言言い切り型のテロール教授に、過去のテロリズム事例を元にズバズバ「真実」を言ってもらうのはそりゃあ気持ちいいでしょうが、そこで「なるほど!テロール教授の言う通りだ!」ってしたらテロール教授が「バカ(以下略)

 

 それにしても教授、わたし参考文献が知りたくて本を買いましたが参考文献のっけてくれてませんでしたね、どんな感じの本でしょうか、『幼女戦記』読めばいいでしょうか(原作者の長期連載作品)

 

 


『鬱ごはん』第177話 珍しい食欲の湧き方

mangacross.jp

 

 鬱野は孤独な青年。フードデリバリーを生業とし、すごく幸福でもすごく不幸でもない生活。凪のような生活に風が吹くとき、それが食事。ローテンションローリターン、低体温飯もの4ページ漫画。

 

 『ワカコ酒』と同じページ数!と書くと、季節の変わり目みたいな温度差にやられそうですが本当にそうです。ワカコ酒は「小さな幸せ」、鬱ごはんは「不幸が大きくない」。逆のアプローチで日々の幸福を綴ります。

 

 さて今回はフリマアプリを介した変な食欲の話。

 

 わたし、フリマアプリって使わないんですよ基本。ホラ、ニューロダイバージェント(発達障害)だからさあ、「ちょうどいい返信」がわかんないの。そこにカロリー取られるのすごい辛いから手を出さない。そういうライフハックもある。

 ところでウイスキーボンボンが出てきますが、そういや最近になって食べてないなあと思います。ひょっとしてバッカスとか久々に食べたら美味しいかな?
ホラ、小粒な作品なので感想も小粒ですよ。それがいいんですよ

 

『だんドーン』モーニング2024年16号

 

 

 幕末、薩摩藩。「息を吸うように人の嫌がることが分かる」、藩士川路。この男こそ、明治の警察の大警視(現在の警察長官)であり、「日本警察の父」と呼ばれた男、川路利良である・・・!

 

 今すごく面白い!面白いぞ!!

 

 元々、血にまみれた革命(江戸城無血開城なんてウソだかんね、江戸城の周りで血の海だから)で、その中の最大勢力薩摩藩を主役に据えて正義でいられるはずがない。内ゲバ、粛清、疑心暗鬼、そういうものが積み重なった先にあるのが革命。

 

 まあそれはそれとして、ごめんちょっとネタバレしちゃうんだけど、

 

 それまでオモシロテキトー薩摩藩のスチャラカ生活!(なお拷問とかは普通にエグイ)って感じだったのに、『だんドーン』のタイトルコールがあってから一転、薩摩藩の醜さ、ずるさが立ち上がってきて本当にいいですね・・・!

 

 僕は「主役交代するマンガはいいマンガ」という主張があるんですけど、まるで正邪反転したかのような主人公陣営への冷徹な批判。うわあこういうの大好き!!今後も楽しみ~♪

 

 あと、月岡芳年(残酷絵を得意とした絵師)がロン毛イケメン仕様で出てきたのでちょっと驚いた。下ネタも言う。

 

亜人ちゃんは語りたい

comic-days.com

 

 高校の生物教師、高橋は「亜人」が好き。何を見て何を考え、どう感じるのかが知りたい。

 亜人とはバンパイアやデュラハン、雪女など、過去には迫害のあった「特別な個性」を持つ人間の総称である。近年では差別もなくなり、生活保障制度も整っている。

 亜人に興味を持つ高橋は、大学で研究がしたかったものの、個人の権利の関係で却下。亜人との出会いを夢見ていたら、4年目にしていきなり新任教師と1年生に4人くらい亜人がいました。いるところにはいるもんです。高橋は、亜人(デミ)ちゃんたちと語りたい!

 

 いやこれエ・・・わたし、自分が発達障害(神経系の特性)を持ってるもんだから、その視点で見ちゃって面白いんだけどさ、

 でも完全に個人の身体特性のSF展開なんだけど、量子学でデュラハンの特性を理解しようとする奴が出てきて歯が立たないよ!(4巻)

 

 とにかく『亜人ちゃんは語りたい』、すげーSFだし、フィールドワークとしての倫理(「特性がコンテンツ化して映画化されたけどいじめられたりしてない?」って教師が気遣う社会性が!)もあるし、すごいいいのに更に「エロなしカワカワ女子高生日常もの(ただしデュラハンや雪女)」としても面白くてこれすごい漫画ね!あと地味サキュバスの佐藤先生が出てくると健全エッチになっていいですわねエッチ。

 

『じゃああんたが作ってみろよ』コミックタントvol.48

 

 

 

 6年付き合い同棲もし、レストランでプロポーズをしたが「無理」と断られた27歳の男、海老原勝男。彼女、鮎美は家を出ていき、傷心に浸る。鮎美はその頃、黒ストレートのロング、可愛らしいワンピース、完璧な料理、全てをやめて、レインボーカラーに髪を染めて自分を謳歌していた。

 「この味噌汁すごく美味しいな!でも、あと一歩だな!」
 無意識の抑圧をグーで殴打(概念)する、痛快な社会的冒険物語。

 

 この漫画、Twitterとかでもよく広告見かけるんじゃないでしょうか。本当にむかつきますねこの男(本音が漏れる)!

 ところがさすがSFの人谷口菜津子、最新話では少し趣が変わり「おれが鰹出汁を取りたかった」という海老原勝男の願いが顕わに。色々素直なやつで、昔から他人に点数つけられるのが当たり前のところで育ったんだなあ。

 一方、鮎美は全然別な場所で出会いがあったので、海老原が改心しても戻らなくていいでーす。海老原が改心すると鮎美とよりを戻すのは無関係でーす。解散解散!

 



『痩我慢の説』

to-ti.in


 静岡で医者をしている冴えない中年男。
 ある日、姪のホナミが家出してやってきた。聞けば獣医になりたいと言う。家内の忠告も聞かず、ホナミを支援するつもりになった医者と、苦学生と、フランス映画と、自由で明るい、希望のあるところ。

 

 作家、藤枝静男『痩我慢の説』を下敷きにしたマンガ、とのこと。ググってみたら写真がこの「冴えない中年医者」そのまんまで笑った。少なくとも本作品は原作者と作中主人公を近しい関係に置いている。

 藤枝静男は1904年生まれ、仕事を持ちながら作家をし、白樺派から志賀直哉マルクス主義に傾倒、軍国主義に覆われる時代に学内左翼に献金して検挙、など、戦中〜戦後までいわゆる「アカ」をやった人だな、という印象。

 この漫画の作者、川勝徳重は漫画クリエイターであり批評家。受ける評価から、大正アヴァンギャルドの流れを汲む「アートとしての漫画」を作る人かなと身受ける。

 石のように話の通じない家内、伸びやかなホナミの肢体、苦学生への言外の嫉妬、
中年医師の親しみ深い愚かさの視点が漫画で立ち上がる。

 感想は全部読んでからだなー!今んとこ、「フランス映画はエッチでいい」という戦中青年の意見はすごくいいなあと思う。エッチだったろうな

 

 

【book】

『日本のフェミニズム 性の戦い編』

 

 日本フェミニズムの歴史が知りたいと思い手に取った本。
 読む人は選ぶはず。冒頭で心折れる人は少なからずいるはずで、わたしは難易度の高い本だと思う。誰にも勧める本ではない。
 
 7人の論考、4人のコラム、2人のエッセイ、ブックガイド。そして1人のインタビューで構成されている。
 谷口真由美氏のリプロ運動の項、金子文子のことばを引用した大橋由香子氏のコラムなど、読むべきところは多く非常に勉強になる。

 特に刑法212条、中絶に懲役刑が科せられる「堕胎罪」がまだ存在している事実に驚いた。わたし自身が当事者なわけだが知らなかった。これは優生保護法により特例的に刑事罰を回避しているだけで、1972年の改定案により日本も中絶が刑事罰になる可能性があったが、ウーマンリブ運動や「青い芝の会」の反対運動があったことも知った。(現在は「母体保護法」という名称)

 自身の事なのに知らないことが多く、その意味で非常にためになった。主張の異なる著作者をアサインし、日本フェミニズムの歴史を多面的に見ることのできる貴重な読書体験だったと思う。