その日読んだ漫画や本の雑感をまとめておくエントリです。
リンク切れや無料期間公開終了などご容赦くださいませ。
本日は漫画7件、本1件の感想です。
【comics】
『ミライライフライ』3話 アフタヌーン2024年5月号
中国、熾烈な学歴社会で自殺者も多発する大学。ドキュメンタリーを撮りたいシュウニエン(舒念)は、教授から「北京の普通の人50人に1日でインタビュー」を課せられ挑戦する。
1話目では翻訳がクレジットされていたけど、今回からクレジットなしになりました。
「北京の普通の人を撮る」というアプローチで描かれるのは、北京の監視カメラの多さ、11/11の大セール、監視カメラの前にいると当局に拘束されること(誓約書で逃げた)、離婚冷静期(中国の国策。離婚を「防ぐ」ため、離婚後に複数回の書類提出を「夫婦二人で」行わないと離婚が取り消される)など・・・・
どこもしんどいっすね、という感想。
「漫画で社会を分かってはいけない」というのがわたしの信条ですが、「相手が見つからないなら春節に帰ってくるな、と息子に言っている」という作中高齢男性のこのムーブ、ジャパン人としてもあまりにも思い当たることが多すぎて泣きそうです。ハア・・・
↓離婚冷静期の話はこちらを見てみた。。離婚が「43%減」したそう。ど、独裁・・・!
離婚冷静期実施から1年後となる2021年の中国における離婚件数が43%減--人民網日本語版--人民日報
『ごぜほたる』
瞽女(ごぜ)。盲目にして音楽で人を楽しませる流浪の芸人。
とある村で、優しい祖父と兄に恵まれ育つ少女、ほたる。明るく朗らかであるがゆえ、その視力がないことを長らく気づかれなかった。兄の態度は慮るように変わった。
祖父はある日、ほたるを村の夜の集まりに連れていく。ほたるが耳にしたのは「キラキラした三味線」。自分と同じ、目の見えない演者である瞽女の存在を知ったほたるは、自分も瞽女になることを決意する。
差別と自活。
大学の卒業制作で、瞽女をテーマにしたものがあった。自身の親類が瞽女をしていたという人の、自活を軸にした物語。それは美しい。
が、瞽女には差別の歴史もある。それは両輪で語られるべきだ。
が、このジャンププラスの美しいマンガは「自活の物語」を語るのだろう!アオリに「天才少女の冒険」ということばを使い、これは「強い瞽女の物語」。それを非とは決して言わない。障害者が弱くなければいけない謂れなどない。
おれなどの大人は、その裏にある差別の話を踏まえたい。しかしジャンプ+で読むこどもは、まずは視覚障害をぶちのめす物語に酔いしれてほしい。
人気が出て、「聴ける系」のメディアミックスがされるといいな。目の見えない子にヒーローを。
「とある実験とシカクについて」
博士は考えた、「ロボットを生み出すロボットがあったらどうだろう?」とある惑星で無事増えたロボットたちは徐々に動きを停止する。なぜなら「ヒマ」だったから・・・
ロボットが「創作」について考える。思考実験SF。
こういうの大好き!!
動きはほとんどない、場所の変更もない、ワンシュチュエーション作劇。
それでもロボットのオカタイくんとキュートくんは、今までのことを回想し、地球をモニターから眺め、博士のことを思い、彼らの思考はさまざまな場所に飛ぶ。
『ゴドーを待ちながら』って劇があるんですが、いなくなった(たぶん神様)を待ちながらグダグダしてるって話(わたしの解釈ね!わたしの!)なんだけど、オカタイくんとキュートくんは暇を克服する「創作物」をなんとか作り出そうとします。これはなんか現代的だし、あと神様がいない文化圏の人が(ロボだけど)考えそうな感じで、無いなら作る、物語を作って畏れ多くない感じがいいなって。
こんなにヒマだったら、わたしはどうするだろうなーって思う。あり得ない状況に自分を置いてみる、SFの醍醐味。
『百姓貴族』ウィングス2024年4月号
北海道出身のマンガクリエイター、荒川弘。生家は畜産・農家。豪快、豪放、雄大な自然に「たまたま生かされている」農家エッセイ。
百姓貴族は勉強になるなー!
今回は「農家が持ってる資格あれこれ」。運転系はもちろんのこと、毒物劇物取り扱い、家畜人工授精師など、「頼むより取る方が早い」とここでもマッチョを見せつけます。脳筋、脳も筋力でいく人たちだ・・・!!!
意外なのは「古物商」。自分のとこで不要になった農機具の売買ができるので便利なのだとか。へー!
『犬』※Twitter発表
新刊「犬」の日本語版が無料公開されました。
— PETER MANN (@petermannnnnnn) 2024年3月27日
中国語版は4月14日に満満漫画フェスティバルに販売します。 気楽に読んでください🐶(1/11) pic.twitter.com/Jh25Glt7js
ある飼い主とある犬。朝、行ってきますと言った後、2人がまた会うことがまでのお話。
犬と人。
犬は日中、服を纏って孤独ながらもささやかで文化的な暮らしを謳歌し、
人は日中、犬のぬいぐるみをかぶって誰か(天使らしきもの)を殺し糧にしている。
犬が本を読んで自らの自立と危険な暴力性に浸っている時、人は心を殺して天使を殺す。「そんなことをしては天国にも行けないし生まれ変わることもできないぞ」と、言った天使を撃ち落とし、今日も犬が待つ家に帰る。
中国のクリエイターさんなのかな?
ちょっと信仰・・・信仰の面から見てみたいと思って、
「天国にも行けないし生まれ変わることもできない」
これって、死後天国系宗教も、輪廻転生系宗教もダメなんだろうなって。
この漫画の「人」は、死んでももうどこにも行けない。
でもこれって割と死後世界のない文化の人は普通というか、現世主義、、死んでも特にいい事ないから今幸せになりたい人(つまりわたし)はそれは怖くなくて、
で、最後に「人」は「来世は犬になりたい」って言ってて、ていうかそれって、「今」、「その犬の生活がしたい」ってことだよねって。
でも、「他者を殺す仕事が辞められない」のって、もうけっこう・・・「飼われて」いて
犬になりたいって思わなくたって・・・もう、ね。。。みたいなことは、思ってしまう。
わたしは、飼われる部分を最小限にできているだろうか。
『サチ録~サチの黙示録~』[第二十一話]
地球の命運はひとりのクソガキに委ねられた!
腐敗する地球を滅亡を、天界代表の天使と地獄代表の悪魔がこどもの行動でプラスマイナス審査。ただし無作為に選ばれたこども、サチはクソガキ!なんとか良い子になってほしい天使と悪い子になってほしい悪魔、三人のほのぼの生活ギャグが今始まる。
サチ、今回もほのぼのとクソガキです。不摂生天使のランちゃんが風邪をひいたので真面目系のえらい人(ランちゃんの上司)がやってきて家が緊張します。
ウチの話しますけど、
こどもが小さい頃、偏食がキツくてトマトのパスタしか食べられなかった時期があってねえ。保育園から怒られて。知らん知らん。小林製薬の紅麹食べてないから褒めてよ(時事こすり)。そこそこ健康に生きてたら何食べてたっていいじゃん。
サチのクソガキぶりは見ていてほのぼのしますねえ。こどもなんてもんは大人をだましたり好きなモン食べたりしてりゃいいと思いますよ。ええ。
『つやを編む』
三宅は、前の席の藤原の髪を編みたい。
妹の髪を編むのが好きな三宅。その前の席に座る藤原は、美しい長髪を持っている。ある微熱の日、その髪を美しいと思った三宅は、その日以来ずっと藤原の髪が編みたい。
いいなあと思って、
日常的なフェティッシュというか。生活感のあるフェティッシュ。
フェティッシュって、極限であることが良いとされるのかなあと思っちゃって、もう異常で構まわない!むしろ社会的な視線としては忌避されるほど個人の執着が反比例して上がる!!みたいな。
そういう命懸けのフェティッシュはそれとして、そこまででもない、さりげないフェティッシュってものもあるんだなあ、と、世の中いろんなグラデーションがある、どの段階も良いものだなと
【books】
『生きづらい明治社会 不安と競争の時代』
岩波ジュニア新書ということで優しい文体なんだけど、これがめっぽう内容が濃かった。
7章立て、明治初期のデフレ「松方デフレ」や都市の最下層労働者の貧民窟、小さな政府のウンコ似非生活保護「恤救規則」などなど、それぞれの章で明治の経済と社会施策を紹介しつつ「現在と完全な比較にならない」ことを断ってからの(誠実~!)現代社会との相似性を述べる。
「通俗道徳」(人が貧困に異陥るのはその人の努力が足りないからだ、とする考え方を表す日本歴史学の上での用語)が明治の社会政策の脆弱さにつながっているのではと問題提起。「じぶん、よく風邪をひくのでこういうのうんざり」というアプローチも好き。
さすが経済学部の歴史学者、双方の強みを活かした明治の切り方はめちゃくちゃウマいし、
あとこの人、ジェンダー観めっちゃ安心・・・女性は元より男性学的にもマッチョにうんざりしてる感じで読んでて楽です。慶應の教授なんて超権威なのに・・・