『ダーウィン事変』のうめざわしゅんの短編集。
4編の重厚な社会風刺や問題提起を含む短編。これがめっぽう骨太で面白い。
ネタバレはしたくないので概要と私の主観をざっと記載。
【善き人のためのクシーノ】
リア充層を支配する非リア充層。
リトルシスター・妹党(いもうとう)の幹部住田はアイドルの監視(ヲチ)を任せられたが・・・
ソ連的ワールドに中国的世界、まあとにかく最悪な共産党政権をオタクが作ったという嘘八百をまことしやかに騙る毒ジョーク。オタクあるあるワードを独裁支配ワードに当てはめるいやらしさにニヤニヤするハイコンテクスト漫画。
【かいぞくたちのいるところ】
IP犯罪が蔓延る世界、厳格なIP法の守護者門田の弱みにつけ込んだ「先生」の交換条件とは。
つまり、「海賊版」を極限まで規制したディストピアもの。絵本めいたふざけたタイトルと裏腹の倫理観をひっくり返すラストの余韻がイケています
【もう人間】
「臍子」という、母子が臍帯で連結しないと生きていけない人間がいるSF。
過去にはほぼ死産であったものが医療の発達で出産に成功できるようになった結果、子が死ぬまで母子が物理的に繋がれていることが人権問題となっていた。
臍子関係を追うジャーナリストは、弱者像を覆す破天荒な臍子当事者、有藤に取材を始める。
これ、仮定の生命倫理の問いを打ち立て、それに応え、さらにその先を問いかける、ものすごい漫画っすよ。人権、自立、権利、中絶禁止法。その果ての結論とは。
臍子というファンタジーだけど、現在の生命倫理をも内包する内容だと思う。
【エピローグ】
かなりの未来と思しき日本にて、有識者未来会議が開かれている。
誰しもがささいすぎる問題意識を抱えいがみ合っている。。
突然の藤子F風作画。本作の中で最も悪ノリが過ぎる一編。全方向に喧嘩をあるスタイルであり、そして全方向耳が痛い。最後のメッセージのみ、くりかえし堪能したい。
【全体】
前から読んでいたのに、『もう人間』の衝撃が今更ながらに響いた。『善き人のためのクシーノ』ばかり読んでいたなあ。
社会風刺に興味があればぜひ。