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『100日後に死ぬワニ』〜同調と死生観とメメントモリ〜

 

 

著:きくちゆうき
出版社:小学館

 

2020年にTwitterをやっていた方なら覚えてますよね・・?1日1ページツイートされるゆるいワニの4コマ漫画が100日続き、そして大炎上したことを。

 

実は漫画として、私は大好きな作品なんですよ。

 

1日1回更新という形は『きょうの猫村さん』(1日1コマアップ)とかでもやってましたけど、100ワニがあそこまでの大ヒットとなったのはターゲット客層とTwitterがメチャクチャに合ってたんじゃないかなーって思って。

 

ワニくん、及びその友人たちはいわゆる「マイルドヤンキー」に相当すると見た。近い地域の友達と遊ぶことが何よりの憩いで、ささやかな楽しみで日々を暮らしている。友達とじゃれる時の擬音は「デュクシ」。

 

素晴らしい引き算の演出で、地元の友達・ワニくんの煮え切らないけど愛すべき日々が紡がれて。

 

1日1ページというスピード感を100日重ねることで、ワニくんへの感情移入はマックスまで高まり、詩的なまでに理不尽な死と桜の美しさのラストにはたくさんの人が涙したモンです。

 

・・・100日までは。

 

同調してたの、みんな「俺の友達ワニくん」に同調したの。

 

100日後からが大変。

 

ワニくんに天使の輪っかがついたイラストでキャンペーンページが公開され、書籍化!いきものがかりのMV!ワニカフェ!!とカーニバル状態。

 

Twitter、怒った。

 

「友達だと思ってたのに!仕込んでたんじゃんか!」

 

 

・・・ホントは仕込んでなかったそうなの、アレ。

 

 

きくちゆうき氏は本当にたった1人でTwitter漫画をスタートさせ、あまりの人気に書籍化担当から連絡が来ていたが100日中は同調感のジャマになる思って非公開にしていたんだそうで。


いきものがかりもカフェもそう。あと電通案件、とも言われたが関係ない(たまたま打ち合わせの時のツイートに「電通研究所」という電通と無関係の会社が映り込んでいて、それをTwitterで拾われたそうで。。かわいそう。。)。

 

言うなれば、Twitterのみんなが応援したことがこのようなメディアミックスを生んだのであって、本来は「僕らのワニくんが認められた!」と喜んでもいいところだったし、きくちゆうき氏は完全にそのように喜んでもらえると思っていたそう(かわいそう・・・)

 

思うに、Twitterの同調は魔物・・・ということでなのかなあ・・・と・・・

 

まるで友達の日記を読むように続いた4コマ。ふにゃふにゃしたワニが友達にいるわけないんだけど、そのワニに自分の友達を重ね合わせた。

 

きくちゆうき氏は毎日同じ時間に4コマをツイートし、100日目の4コマのみ4コマの状況とリンクさせるために時間をずらす演出をしたんです。

 

素晴らしいメディア演出!でもそれが「効き過ぎた」。

 

友達の死にすっかり涙したTwitter民は、ひょっとしたらお通夜を営みたかったのかもしれない。共通の友達(Twitter民同士)で死を悼み、思い出に浸って弔い、彼の思い出を語りたかったのかもしれないですね。

 

4コマ漫画のワニである。人じゃない。でもそんな、死を悼むムーブがあった。

 

でも100日後のイメージとしては、お通夜会場でビカビカの電通社員が賑々しく商品をずらりと並べてるような感じで。その上死んだはずのワニくんは天使の輪っかをつけて笑っているし。

 

あくまでイメージなんだけど、そうイメージされちゃって。

 

同調が深いほど、裏切られる気持ちも深い。

 

ワニくんは友達であって欲しかった。企業や資本と離れていて欲しかった。

自分たちを騙さないで欲しかった、ということなのかな・・・と思う。

 

 

多分なんだけど、死からしばらくして、おずおずとこれらプロモーションが立ち上がっていたら、Twitter民はむしろ喜んだんじゃないかなあ。

 

つまりこう、クラシックなお葬式の儀式、初七日や四十九日という日数を経て、気持ちの切り替えができた時に「ではそろそろ個人の遺品整理を」と始めたら良かったんじゃないかなあ。。。とか。

 

ここは日本マジョリティの仏教・神道系の人の死生観(死への概念)が反映されているんじゃないかな、なんて思う。

 

なので死を明るく弔う文化圏だったらひょっとしたらカーニバル!みたいになってたかも・・・しれない。

 

すべては仮定の話。ワニは死に、Twitterは燃えた。

 

なお、漫画作品としては「ともだち」を死を想いながら見るという酷薄な題材ながら、引き算の抑えた演出で私、本当に好きだよ。死は理不尽な暴力。詩的!

 

なおこちらはきくちゆうき氏のインタビュー。主にかわいそう。うん、まさかこんなことになるとはネ・・・

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