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『王の病室』感想~71兆円あったら、私は父に生きてほしかった~

 こんにちは、実家が超貧乏な家の子、中山今です。

 

 本日は時事問題的な話をしようかと思いまして・・・

 

 『王の病室』という漫画なんですけど・・・・ご存じですかね。

 

 講談社ヤングマガジンで連載、2023/7/3現在で4話目が掲載されています。

 

 現在の日本の医療費用の制度と、医療の選別について問いを投げかける漫画です。

 

 こちらの漫画に思うところがありましてエントリーを書こうと思います。

 

 私の個人的な想い出を書きます。25歳の頃の、まったくおカネが無くて、父が白血病で大学病院に入院して、こん睡状態になった時の話。

 

 でも、「71兆円あったら、医療の選別をどう思うかと自分に問うこと」が私の感想で、かつ、本エントリーのタイトルがそのアンサーです。

 

  この漫画がある意味で癒しを提供する漫画であること、

 25歳の私に甘い蜜であったであろう話をします。

 

 

 

  『王の病室』は講談社ヤングマガジンで連載をしている医療漫画です。

 

 

yanmaga.jp

 

  主人公、赤木誠一(アカギセイイチ)は総合病院の研修医。

 学生時代は東大も合格圏内と言われた頭脳を持つ赤木。24歳になり、総合病院の研修医という立場で過労と理想の間に揺らぎます。

 

 彼の理想は、経営破綻した実父の診療所を反面教師に「儲かる医者」になること。

 クリニック医になり、外国車に乗り愛人を囲うことが彼の夢です。

 しかし現実に研修医になった彼は、先輩の医師高野(タカノ)より「社会医療費を国民全体で負担し、一部重症患者が王様のような治療を受けている」ことへの疑問を投げかけられます。

 

 

 

 

 まず最初に断っておきたいのは、この漫画はまだ4話しか掲載していないということです。

 

 このあと、物語がどのように進むかは分かりません

 

 しかしその上で、この段階での感想を書きたいと思ったのが、私の個人的な想い出がよみがえったからです。

 

 私は、父に死んでほしいと願った人間です。

 

 

 約15年ほど前です。私は25歳で、私の父は58歳でした。

 

 父は地方から上京してきて、自営業者として細々と3人のこどもを育てました。

 

 しかし2008年リーマンショックが起き、父は仕事をたたみました。

 

 その直後、不運にも父は白血病に倒れました。

 

 やさしい父でしたが、本当に不運なひとでした。

 

 父が仕事をたたんでしまったので、専業主婦の母と、統合失調症の姉と、ニートの弟が残されました

 私は家を出て派遣社員として働いていたころです。

 

 私の家にお金はありませんでした。

 

 父の病状は極めて悪く、すぐにこん睡状態になりました。

 

 ベッドで呼吸器をつけられ、意思の疎通すらできず、ただ生きている父。

 

 私たち家族は父が奇跡的に回復してくれることを望みました。

 

 しかし、私はある考えが浮かんでいました。

 

 「あまりに長い間、入院されたら、入院費はどうしたらいいんだろう」

 

 つまり遠回しに、

 

 父に死んでほしいと、願ってしまったのです。

 

 父はその後、数日で亡くなりました。私は泣きながら、それでも、ホッとしました。

 

 

 

 

 『王の病室』では、医者である高野が「未来の自分の娘たちのために、高齢者の医療費で残り僅かな豊かさを食いつぶされるのが我慢できない」と言います。

 

 このことばは、一見若者に寄り添っているように見えます。若い人が納める保険料を高齢者が使いつぶしていくことが許せない、というのは、若者の味方をしてくれているように思えるかもしれません。

 

 でも、それ以上に、傷病者家族と、傷病者本人にある意味で甘い言葉であると思います。

 

 作品中でも「ひと月最大10万円(高齢者は6万円)で王様のような医療が受けられる」と言っています。これが高額療養費制度です。

 

 しかしその「月に6万円」を払えない人間はいるのです。

 

 25歳の頃の私は、そうでした。

 

 そんな私が作中の医師、高野のような思想の医師が「勝手に父を殺してくれる」ということを聞いたら、

 

 それは倫理観に全く欠け、恐るべき考えではありますが、月に6万円が払うことのできなかった私には、ある意味で救いだったと思うのです。

 

 『王の病室』は、Twitterで高齢者差別的であると話題になっていました。

 

 しかしそれ以上に、その日の食べ物にも困り、そんな家族に迷惑もかけたくないと願う傷病者家族・傷病者本人に、ある意味での癒しを与えているのではないかと思います。

 

 

 

 それが20年前の私の心情です。

 

 でも今、もういい年齢になって、それが間違っていることを昔の私に伝えてあげたいのです。

 

 私が父に死んでほしかったのは、極めて純粋に、たったひとつ、金銭の問題でした。

 

 つまり、金銭面がクリアできていれば、私は父に生きてほしかったのです。

 

 『王の病室』では、決定的に誤った認識として

 

 「日本が貧しい」

 

 ということばが大前提にあります。高野の主張としてはそうです。

 

 しかし日本は貧しくありません。令和4年度の税収は過去最高益で71兆円であるというニュースが流れました。私たち庶民が貧しかったとしても、国家は貧しくはありません。

 

news.yahoo.co.jp

 

 

 高野は自分の娘たちの未来のために高齢者の医療費を削るべきだと考えています。

 しかし、国家には最高益の税収71兆円があるのです。71兆円の分配を、少子化してとても少なくなっているこどもたちに十分に割り振れば、高額療養費制度はそのままでも高野の理想には反しません。

 それどころか、未来あるこどもたちに「親がこのまま死んでくれたらいいのに」という悲しい考えを持たせずに済むのです。

 

 

 今、25歳の私のように、「医療費が恐ろしすぎて、そのまま生きるくらいならいっそ高野のような医師が殺してくれたら」と考えている人に、そっと伝えたいのです。

 

 『王の病室』の高野の主張は、医療費に苦しんでいたり、将来を不安に思うあなたに、一見優しく見えるかもしれない。

 

 でも、医療がなんの不安もなく受けられて、その後の生活の保障だってあって、豪勢じゃないかもしれないけれど、毎日3食、ゆったりと食べられて、衛生的に生きられて、ほどほどの娯楽もできる生活が待っていたとしたら、

 

 あなたは、高野に賛同しますか。

 

 たぶん、そんなことはないんじゃないでしょうか。

 

 25歳の私は、お金に不安がないなら、父に生きてほしかった、そう言うと思います。

 

 大柄で無口で、優しく、図書館通いが好きだった父が、今も生きていたら、

 入院生活だったとしても、お金の心配はなく、ゆったりと好きな本を読み、見舞いに行ってその本の話を少しして、私のことなども話して、

 

 そういう生活が待っていたら、死んでほしいと願うことは無いんじゃないでしょうか。

 

 

 最後に、『王の病室』はまだ4話目の漫画です。

 

 主人公赤木は、高野に対してどのようなアンサーを返すのでしょうか。

 

 高齢者差別をすることも、自分や、家族が死んでほしいと願うことも望んでいません。

 

 みんなが幸福になる選択を赤木がしてくれたらいいなと思います。

 

 高野は、なぜ日本が貧しいというのでしょうか?それには、なにか理由があるのでしょうか。

 

 ヤングマガジンは毎週月曜に発売されます。『王の病室』の展開を見守りたいと思います。