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『フールナイト』感想〜禍々しく鮮烈な絵とえづくような貧困の近未来SF〜

禍々しくも美しく、貧しさに冷や汗が垂れる辛いSF漫画のご紹介です。

 

絶望的なディストピアがお好きならばぜひ!

 

あらすじと感想をご紹介します。

 

『フールナイト』

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フールナイト 安田 佳澄 小学館 /より引用

 

【あらすじ】

厚い雲が日をさえぎり100年経った世界。

植物が枯れ果てる世界で、酸素を得るために「転花」という技術が発達した。

それはヒトを植物に変える技術。施術を受けた人間は2年ほどで植物に成り果てるが、1000万という大金を得る。

 

工場勤務の貧困青年、トーシロー。

月給9万で、重度精神障害の母親と暮らしている。

貧困に絶望したトーシローは「心の豊かさを買う」として転花施術を受ける。

しかし施術から覚めたトーシローは、転花した者、通称「霊花」の声が聞こえるようになっていた。

 

【感想】

絶望的な貧困!!!

「月給9万」「精神障害の母と暮らす」など、貧困ワード満載。多分福祉にきちんとつながればもう少しやりようがある気がする状態だけど、トーシローがそこに繋がるための経験や知識がないこともひっくるめて貧困。人間関係の貧困や知識の貧困。

 

トーシローは常に「貧しさ」「豊かさ」の二極の自問自答を繰り返し、間の選択肢がないどん詰まりの絶望感。

生々しすぎる貧しさ、コロナ禍でグイグイ胸にくる。

 

 

そして貧困を表現する絵がまた素晴らしくて!

 

特にカラーページ、陰鬱な世界を象徴するかのようなグレーをベースに、「血の赤」「闇の黒」といった色味が鮮烈。

灰色ベースなのに鮮やかな混乱する色味。でもとても美しい。。

 

生の意味を問う哲学性やアーティスティックなイラスト表現をしつつ、言葉通りの「植物人間」になりゆくヒトの哀しみの過程のドラマ、霊花の追撃チェイスなどエンタメ的にもバッチリ。

 

絵だけ眺めるのでもよし、地獄の貧困にえづくのもよし。まだ2巻なのでぜひ読んでほしい!