昭和24年。
田舎の旧家の天外家では家長の父が長男の妻に産ませた不義の子、奇子を中心に、いびつな人間関係が構築されていた。
次男、天外仁朗はGHQのスパイであった。殺人工作に関わったことから、天外家の人間関係は家族間殺人にまで発展していく。
松本清張と横溝正史と手塚治虫を足して割らない。戦後未解決事件の「下山事件」と呪われたイエのおぞましき姿、そして美しく無垢、不幸を呼ぶファムファタール。
この作品には誰1人感情移入のできる者はいない。
戦後処理の犯罪者には必要悪すら感じることはなく、性欲と虚栄、そして保身から殺人や幼い子の幽閉までする天外家は唾棄すべき人間たちだらけだ。
登場人物に感情移入するどころではない。必要悪に見せかけた醜悪な暴力は、ロジックの理解すら脳が拒む。
生臭く醜い人間を滅びに導いた奇子が、己の愚かさに苦しむ人間たちを空っぽの目で見つめている。
私の居場所はここじゃない。自分がこの世界にいなかったことを感謝する。そういう漫画だ。