「BLACK -THE STORY OF MONSTER SYNDROME-」
※今回はいきなり感想から入るので、ぜひ読んでからどうぞ※
正しいマンガだと思う。
昏く、とても美しいアートワーク。デバイスとSNSを連想させるコマ割り。無機質。部屋に漂う生活の匂いも、小道具感覚でしかない。ゴミひとつない街。
彼らはスマホの中に存在し、生活感のない暮らしをしていて、過剰労働と睡眠薬の脳の幻影として在る。
それは確かに生身の人間ではないけれど、ダイレクトに彼らの苦悩を映している。
巨大ロボットが時折現れる巨大な「怪物」を駆逐する世界。
主人公、羽黒は18歳(作中で1歳歳をとる)の少年で、吃音があり、たぶん母子家庭だ。純朴で絵が好きで、ヒーローになりたかった。人間関係はSNSだけ。工場勤務でいいように違法残業させられ、睡眠薬を飲んで26時退勤まで耐え忍ぶ。
あまりに純度が高い「哀れな現代の若者像」。
ともだちといえば拾ってきたカラスだけだ。巨大ロボットのパイロットの配信動画(多分に人気YouTubeとしての性質を備えた)を見るのを楽しみにしている。配信主=パイロットはヒーローで、憧れだからだ。
そのヒーローから否定されたことで、母親が死んで現世の友愛が全てなくなったことで、羽黒は「怪物」になり、ヒーローを駆逐する。
怪物はこの世界において、羽黒のような人間が死んだ時に現れるものと示唆されている。
この社会の格差が怪物を生み、それを駆逐するために巨大企業がまた羽黒のような人間を量産し、また怪物が現れ、ロボットを破壊し、また工場が稼働する・・・というマッチポンプの世界だったようだ。
絶望的な世界観だ。
しかしここで、本作の物語をジャンプの理念「努力・友情・勝利」について当てはめてみたい。
羽黒は努力した。連日26時退勤に睡眠薬で耐え凌ぎ、勤勉に労働を行ない、それでも夢を忘れなかった。
羽黒は友情を持った。それはSNSであり、YouTubeの配信主の指導だった。なにより母親の愛があった。そして、友情が裏切られた(SNSは睡眠薬で呆然とした自分の自作自演だったし、配信主からは存在を否定され、母親は死んでしまった)ことを起爆剤として物語は展開する。追い詰められた最後の友・・・「自分」のために立ち上がる。
羽黒は勝利した。この世界の唯一の革命、「絶望して死んだら怪物になれる」ファンタジーを利用して、自分を否定したヒーローを駆逐した。
本作はジャンプの少年マンガの構文として説明できる。でも、なんと哀しいのだろう。
私は本作を肯定する。いや、私の許可なんかこのマンガは要らないのだ。羽黒が怪物になりたければなっていい。私のような、社会構造にぎりぎりのれて食えている大人が、羽黒に許可・不許可を与える権利があると思うこと自体がおこがましい。
それに、羽黒はとても正しい。
羽黒は無辜の人を狙わなかった。ただ真っ直ぐに、直接自分を貶めた者(配信主のロボットパイロット)を狙い、自分を搾取していた企業に報復をした。「誰でも良かった」ではない。キチンと自分を貶めた者を理解し、正しいターゲットに攻撃をした。
ここで現実世界の話を挟む。