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『逆資本論』※漫画の感想~読み心地は「快」!夫と妻の経済学の掛け合いは、妻の出自が貧しい農村ということでグッと納得感が増す~

こんにちは~!マンガは月々50誌&20冊、中山今です。

 

今回は経済をテーマにしたマンガをご紹介したいと思います。

 

井上純一『逆資本論』2023/4/26 講談社※紙のコミックスの出版元は『星海社』です。

 

 

 

以下、Amazonよりあらすじを引用します。

 

中国嫁日記』の井上家と一緒に学ぶ、マルクスの『資本論』で世界を救う道!

気候変動により、私たちの世界は崩壊の危機にあります。
その原因は、人々が欲望のままに経済成長へと走る資本主義。
そこで叫ばれるキーワードが「脱成長」です。

しかし「脱成長」という理念に基づく、
資本主義からの脱却は本当に世界を救う道たりえるのでしょうか?
本書では「脱成長共産主義(コミュニズム)」を批判的に検討し、しかしその思想の中核にある『資本論』を「逆」に読み解くことで、資本主義のなかで世界を救う道を探ります!

 

https://www.amazon.co.jp/%E9%80%86%E8%B3%87%E6%9C%AC%E8%AB%96-%E6%98%9F%E6%B5%B7%E7%A4%BECOMICS-%E4%BA%95%E4%B8%8A-%E7%B4%94%E4%B8%80/dp/4065291011/ref=tmm_other_meta_binding_swatch_0?_encoding=UTF8&qid=1682944993&sr=8-1参照2023/5/1 21:50

 

 

さて、私は経済のことや共産主義、資本主義のことはオヤツ程度にしか理解していません。しかしこの漫画は見るべき価値のある漫画だと思いますし、主な主張にも賛同しておりますよ。

と、いうわけで、経済学の観点からはほかの方に譲り、私は漫画批評をする者らしくこの漫画の「漫画としての読みやすさ」をピックアップしてご紹介したいと思います!

 

キーワードは「快」です。ここちよさ!

 

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この漫画は経済学、ひいては社会、政治、環境問題、社会運動の重要性までを語る漫画なのですが、むずかしくって「ぽえーん?」ってなりますよねこれらの題材。

 

しかしこの漫画では、指南役としての「井上純一」がおり、その指導を妻の「月(ユエ)さん」が受ける、というスタイルで進行していきます。

 

このスタイルの何がイイって、読者の「ぽえーん?」を受け手(この漫画で言えば月さん)が代弁してくれること。

 

すると、読者の

「わかんねえ~」

を、月さんが

「○○だからデスか・・・?」

と聞いてくれる。

 

これで読者も「それだ!自分らはもうそのわかんないところも分かんなかった!ナイス言語化!月さん!」と、まず問題意識を新たにする。

 

それを「井上純一」が丁寧な絵と文で解説していく・・・

 

漫画の読み心地的に言えば「快」ですよ快。わかんないところがはっきりして、それが明快に解き明かされる。読み心地としてキモチイイです。

 

 

このスタイルの漫画、ビジネス広告漫画でよくあるスタイルです。

 

 

しかし『逆資本論』では、受け手の月さんがときおり、怯えるほど鋭い質問を「井上純一」に投げかけます。

 

それは月さんが幼いころ、貧農で生活していたから。テレビは村に一台、羊を追って暮らしていた人の「本当に貧乏はツラいデスよ」と叫ぶド級の説得力。

 

月さんがそのペルソナを持っているからこそ、ときおり語り部井上純一」がたじろくようなするどく、時に話を腰を折るほどにエッジの効いた質問を投げかけます。完璧な指導受けと、指南役がひるむほどの反論の緩急。ただただ一方的に教わるだけでない構造で、これもまたこの漫画がマンガとして面白いゆえんです。

 

全体の構成も、序盤に絶望的な問いを投げかけ、ラストに「井上純一」なりのアンサーを返す小気味の良いもの。『逆資本論』という漫画全てにおいて、スカッとまとまっています。

 

 

だからこそ、実際の学びという点については留意が必要です。

 

そもそも私の持論は「漫画でなにかを学ぶことはできない」です。漫画はエンタメが基本なので、漫画だけで何かを学ぶことはできないと固く信じています。

 

特にこの「逆資本論」は、読者に快を与えるようすばらしく練られた構成で、それは良くも悪くも、モノによりはしょったり、モノにより強めにスポットライトを当てるなどの作者の編集があることを意味します(私は経済学に明るくないが故、編集の軽重をご紹介はできないのですが)。

 

しかし、その登場する用語・・・・・

 

カール・マルクスアダム・スミス資本論、脱成長、長期停滞、使用価値・交換価値、気候危機、環境難民、グリーン・ニューディール、ベースロード電源、民主主義の欠陥、アレクサンドリア・オカシオ・コルテス、サンライズ・ムーブメント・・・・

 

これらの単語への検索アクセスを促し、また『逆資本論』を「井上純一」のいち意見として見て、読者自身の知識と持論を発展させる効果を鑑みた時、この漫画はとてつもなく「良い」漫画だと言うことができます。

 

経済学に興味のある方はまず読んでみることをお勧めします。

経済学を深く学んでいる方にはひょっとしたらすでに既知の内容かもしれません。しかし少なくともこれらの知識を総合し、一冊の漫画としてすごく上手く、きれいに編集された稀有なマンガであることは間違いありません。なんせ漫画として読んでも「快」なので!そこから自分の「逆資本論」に展開していこうじゃないですか。

 

 

なお、作者の井上純一氏は月さんとの生活のエッセイ「中国嫁日記」もヒットしているのですが、もともとはイラストレーターやTRPGのデザイナーです。いや、この情報別に要らないんですけど、そういう人が資本論について論じてるって興味でません?

 

 

2023/5/1 中山今