その日読んだ漫画の雑感をまとめておくエントリです。
リンク切れや無料期間公開終了などご容赦くださいませ。
本日は9件の漫画の感想です。先日バタバタしていたので数日まとめています。4000文字越え、「今日は漫画のレビューが浴びるほど読みたいな~」という気分のときどうぞ。
- 隙間/高 妍(ガオ イェン)
- 『キラキラしても、しなくても』小池定路
- 「[#003]ぼくと海彼女」木崎アオコ
- 『あれよ星屑』山田参助
- 『女甲冑騎士さんとぼく』青井タイル/ツナミノユウ
- 『レタイトナイト』香山哲
- 『don’t like this (トーチコミックス)』鶴谷香央理
- コミックライドアドバンス2023年8月号(vol.35)
- 『心臓 (トーチコミックス)』奥田亜紀子
隙間/高 妍(ガオ イェン)
【電子版】月刊コミックビーム 2023年9月号
台湾の漫画クリエイターがKADOKAWAのレーベルで連載中。
台湾においてはテストで「中国」は×、「大陸」が○・・・
ド直球の侵略教育批判をコミックスで描く。これが日本のレーベルだからできたということなのか。
期待するのは、これに触発されて日本でも歪んだ教育について指摘するマンガがでること。やりましょうやりましょう。
『キラキラしても、しなくても』小池定路
普通の男の子たちの恋、がコンセプトの恋愛オムニバス漫画。
めちゃくちゃな美少年とか、クラスの羨望の的とか、
逆に嫌われ者とか、犯罪者とか、
そういうんじゃない、ただ道を歩いている普通の少年たちの同性への恋心。
今回は妹の彼氏とモヤモヤしたことのあるお兄さんが、自分の恋心を封印する話。
半径10メートルの中で恋が生まれるのは高校生っぽいなあと思いつつ、シスジェンダー人口が多いゆえ、同性同士の恋に密度が出てしまうのはあるのかもしれない、とか。
でもどうだろう、キラキラしてないかい?
私のような中年からすると、普通のこどもが恋心を交わしているそれだけで、何にも代え難い煌めきがある。
恋心を持つという煌めきって、煌めきの中でも激しいやつじゃない?なくたっていいんだけどさ、煌めきの中じゃあパチパチしてるやつだからさ。恋。
「[#003]ぼくと海彼女」木崎アオコ
親の離婚に振り回されて、生まれ故郷の島に帰ってきた三夏猫(みかね)。
みんなハッピーになる選択をしたし、自分もなんでも程よくこなせるけど、その実、いつでも「ここじゃないなあ」と思ってる。
そんな三夏猫の前に現れた不思議なお姉さんは「人魚」・・・?
ウミウシの人魚、という、ありそうでなかった、でもカラフルでとても映える人魚像が新鮮。
今回は長崎を観光するよ。暑すぎて外に出られない今、遠い(関東民なんで)場所でのお姉さんとの旅は甘くて、ちょっと切なく感じます。
『あれよ星屑』山田参助
二次大戦敗戦後の東京、焼け野原のバラックで逞しく生きる人々と、酒浸りの帰還兵がいた。エッチで猥雑、空腹を抱えつつも楽しい日々は、過去の罪を忘れられない人には耐えられなかった。
戦後の荒くれながらも逞しい物語。食べ物が足りなきゃ野犬を狩るし、仕事がなけりゃパンパンのボディーガードをやってみんなと懇ろになっちゃって。おおらかな明る〜い逞しさは苦笑いで読めるのだけど、
最終巻7巻は、中国大陸での凄惨な拷問や虐殺を「6巻まで愛すべきキャラクター」としてずっとサブ主人公だった男が行う。生き生きとした朗らかな生活を送る人、日本においては女こどもにも優しい人が、中国大陸でどれほど凄まじい虐殺をしていたか。
民間人に水を飲ませ続ける拷問、日常的に行われる民間人へのレイプ、いじめで首をくくる少年兵。
殺し、殺され、生きて、生きることができなくて。
私が切り取って印象付けて紹介するにはあまりに複雑で繊細なので、これはぜひ読んでいただきたいです。
日本兵の残虐性をしっかり描いていることは保証します。『B-29の昭和史』の著者、若林宣もアドバイザーで参加。第23回手塚治虫文化賞にて新生賞を受賞。以下が受賞の際の評価コメント
>『あれよ星屑』(KADOKAWA)で、歴史の光と闇、人間の欲や業を鮮烈に描いた力量に対して
『うみべのストーブ 大白小蟹短編集 (トーチコミックス)』
喋れるストーブと、彼女のいない海を見に行く。透明人間になってしまった彼との生活について。日常に少しだけSFが効いた、心の中の温度差を描く短編集。
ふわっとしっとり良い短編集。
誰しもが持ってる温度感は、似ていたはずなのに変わってしまったり、絶対相容れない温度だったり。どちらかが変わる話じゃなくて、すれ違ってて良いって話をしてもらえるので、それは一周まってマッチョじゃないハードボイルドに接続するのでは(言い過ぎ?)
『女甲冑騎士さんとぼく』青井タイル/ツナミノユウ
オタクなぼくは「女甲冑騎士さん」とルームシェアをしている。
説明が難しいな、女甲冑騎士さんです、あの、西洋の鎧の、そう、全身覆うタイプの、それをずっと着けてるひと、あ、顔は見えませんね、いえ面頬があるでしょ、あ、すごくいい人です。
説明不可能。「高貴な人格の甲冑というキャラクターと暮らす」、シュールなシュチュエーションコメディ。これは読んでもらわないと分からないタイプの作品だし、読んでもらっても分からない可能性は否定できないやつなんだ。ハマれば面白いんだよ・・説明はできないけど・・・
今回は「他人に部屋の掃除をまかせたら黒歴史を掘り起こされる」の回。女甲冑戦士さんの高貴さが光る。
自分の部屋を他人に掃除してもらうなんてまったくザワザワする。こうなるに決まってんじゃん。後世まで飲み会のネタにされるに決まってんじゃん。隠したと思っても出てくるのが黒歴史なんだよ、自分でも整理できていない黒歴史が掘り起こされてごらんよ(ブルブル)
『レタイトナイト』香山哲
『ベルリンうわのそら』の香山哲新作。
とある時代、ザイ地方。
4つの国と、上下を海に挟まれた地方に住む少年カンカンは、この国で学校よりも働くことを希望している。
魔法のある国での経済思考実験。この国の経済はどのように動いているのか。
異国の経済観念が忍び込む異色ファンタジー。
『望郷太郎』『ハイパーインフレーション』など経済を別世界で再構築する作品が好きなので楽しみ。
『ハイパーインフレーション』は特に顕著なんだけど、魔法と経済(現実の経済のデザイン)って食い合わせが悪くて、つまり魔法で経済理論をひっくり返せる。
また、能力のエッジが際立ってるとよりエイブリズムがキツくなり、優生主義的な差別の危険性も上がるだろう。
・・・みたいに、魔法×経済は魔物だと思うですよね。経済って哲学で宗教で民俗学で社会学だと思うので。
『レタイトナイト』では、学歴によって雇用が確定していない(そもそも雇用も超流動的っぽい)世界観で、また時限でロバの値段が上がることがそんなに問題視されてないっぽい。
日本の経済観念から大幅にズレていて、この思考のずれ方はちょっと気持ちいい。
※この感想に作者香山哲氏からアンサーをもらってて、「今作の魔法は、熱量保存の法則が効いている環境を想定してます」とのこと。私は物理はぜんぜんダメなんだけど、労働と魔法のカロリー価値が等価(たとえば岩を動かす力は魔法でも労働でも同じだけ疲れる)ということかなあ?楽しみ。SF好きな方もぜひ。↓
『don’t like this (トーチコミックス)』鶴谷香央理
ペプシの青い長い缶、それからいくつかの好きなもの、それ以外は好きじゃない。
取り止めのない普通の日々を生きる女の子は、ある日釣りを始める。海釣り、釣り堀、全然熱心じゃない、日常と人の側にある釣り。
私は釣りを全然やらんのですけど、こういうゆるい感じで、スマホを持てない時間を持つのはいいことだなあと思いました。普段会わない友達と会ったり、断られて一人釣りになったり、そういうゆとりの趣味としての。とにかくスマホだよスマホ、両手を使う趣味でスマホを手放せって話だよ!スマホから逃げろ!もう!!
コミックライドアドバンス2023年8月号(vol.35)
6作品は完全なエッチニスタなのだけど、『転生競走馬H-MAN(エッチマン)』という作品はエッチじゃない、転生エッチ雑誌にガチな競馬モノが混ざる科学変化が起こっている。
編集会議の様子を思ってひとり涙する。雑誌に不協和音を持ってくることを寿ぐ・・・!!!
『心臓 (トーチコミックス)』奥田亜紀子
短編集。
余命を宣告された女の子と、無関係に暮らす「小さな村人たち(暗喩とかじゃなく)」の生死が交錯する『心臓』、
DVカップルに付き合わされるフリーターのぐったりくる日々『ニューハワイ』、
小さな女の子の目線をそのまま描く『るすばん』など。
主人公はみんな女の子。
女の子たちはいつも不安で落ち着かない。物語は結論までいっても気持ちの良い答えを返してくれないものもあって、ぶっちゃけ読んでて心地いいものではない。
けど、こういうものたまに読まないといけないなあと思う。世界がいつでも居心地がいいと思ったら大間違いだし、なんならこっちの、不安を抱える方が正しくすらあるのはそう。
DV男と切れない友達の話とか、友達っていうか、友達だけど、ほんっと見限りてえけどさ〜〜〜〜、
見限れるヒトばかりじゃないし、それはそう、全くその通り。
見限る前の段階もあるし、見限らないで続く関係もあるだろう。そういうあやふやさの時間的バッファを持ちたい(個人的にはねえ、お勧めしないんだあ、オバさんの知恵袋でねえ・・・・・)