その日読んだ漫画の雑感をまとめておくエントリです。
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本日は16件の漫画の感想です。
- 『ヤバイ』
- 「[第118話]ダンダダン」
- 「[第139話]チェンソーマン 第二部」
- 「[第80話]株式会社マジルミエ」
- 「ミミズヘッド」(読み切り)
- 『133cmの景色』
- 『トマトエモーション』
- 『だんドーン』
- 『逢いたくて、島耕作』
- 『二階堂地獄ゴルフ』(新連載)
- 「[第13話]ハンサムマストダイ」
- 『サバンナホットライン』(新連載)
- 『アスラの青春』
- 『断腸亭にちじょう』
- 『税金で買った本』
- 『平和の国の島崎へ』
『ヤバイ』
えー、本当にヤバい読み切りです。
私の「ヤバイアラート」が脳内でガンガン鳴っている。ヤバイ。
ええっと、ストーリーとしては「未来の世界でフォロワー50億人(!)の大人気バンド「ザ・ヤバイ」のボーカルに死刑判決が下った。AIによって、彼を死刑にすれば後追い自殺で10億人の「人口調整」ができる。ザ・ヤバイは最後のライブを申し出る」
というのが物語ですね。
これは宗教と選民の話だと思って。
私はいい目では見られないな。。
結末としては、バンド「ザ・ヤバイ」はバンドを信奉する数億人と異星に移住、その後地球は戦争によって崩壊、「芋虫のチャーハン」を主食にする・・・という終わり方。
色んなやばいポイントがあるんだけど、まず話のキーになるキャラクターは「ブラックと日本人の混血」で、出自としては「貧しい国」の子供であったことが示唆されてる。また結末の「芋虫のチャーハン」を食べる親子はブラックとして描かれている。
反面、熱狂するオーディエンスは白人種・・・というより北米のライブ会場というイメージに見える。「豊かな国」だ(貧しい国との対比として)
そのライブ会場に満ちた豊かな人たちと共に「異星」に向かう。後には、貧しい国の親子が残される。
ザ・ヤバイは各国の貧しい国で愛を振り撒いている、というのは描かれているんだけど、グローバルサウスのこどもが大人になって北米のライブ会場に行くことができる可能性ってそんなにない。一生、自国から出られない人間なんていくらでもいる。
その点が手癖で描いてるなら片手落ちだし、あえてなら邪悪・・・。
あと、世界規模の話をするなら昆虫食はそんなに珍しいことじゃないし、それをペナルティのように描いていること、
人種差別の話するならやっぱブラックだよね!って、その割に主人公は日本人(名前が漢字)、
ジャンプラは英語で同時通訳されて英語圏に発信されているはずです。日本のマンガファンだけが読むものでは無いはず。
なのにものすごく1980年代のマンガ感があって、う~~~~ん・・・って感じです。
ものすごく狭い、本当に狭い、ネットがなくて周囲にブラックルーツの子がいなかった頃(今、クラスに1人2人普通にいるから!)の小学3年生に向けたマンガ。
その割に「努力・友情・勝利」じゃなく、バンドへの「信仰」というのが勝利条件で、ヤバイとしか言いようがないっすね。。
アメリカの共和党っぽい雰囲気を感じちゃいます。バンドが白人ロックなこと、ライブ会場が北米のイメージなのも併せて。
「[第118話]ダンダダン」
圧倒的・書き込みの暴力。オカルトバトルは画力が命!怪獣は現れ街は破壊されろ!それがコドモの浪漫ってもんやろがい!
画力バトルが凄すぎて、毎週楽しみにしながらもうあらすじで書くことがない。見て楽しむマンガです。
私はこういう比較を気軽にするんですが、↑のジャンプラの読み切り(島袋光年『ヤバイ』)、あれも質量のスケールで押してくるタイプのマンガでした。でも残酷なことに、もう何もかも届かない。
『世紀末リーダー伝たけし!』、リアルタイムで楽しく読んでいました。作者の少女買春で打ち切りになった作品でしたが、こどもに向けたマンガだったと記憶しているし、私は楽しく読んでました。
『ヤバイ』はこどもにも年寄りにも向けたもんじゃないです。30代くらいの、「あの頃のマンガはこの程度描いても問題にならなかったよね」と戦後の手塚の人権への敬意は知らずに口走る人向けです。
『ダンダダン』の主人公たちは深い事情を持つ妖怪たちの悲しみを共有して画面質量バトルを繰り広げます。
エンターテインメントとしても、メッセージとしても、今の時代に即しています。
残酷な業界の新陳代謝、いいことだと思います。
「[第139話]チェンソーマン 第二部」
ウンウン!チェンソはこうでなきゃ〜
デンジがバカで話が動く!食べ物、ゲーセン、女の子!!ステーキ食べたいとかアイス食べてるとか女の子とか!!
なお、チェンソ世界は第一部で1997年と明記されているので(第二部は2000年代なのかなあ)なので、現代の最悪欲求「SNSによる承認欲求」はまだ存在してない(テレビ止まり)。
でもどうかなあ、デンジ、SNSとかやらなそうなのでそんなに変わらないかもしれない。フリック入力しなそうだし。
「[第80話]株式会社マジルミエ」
魔法少女が職業として成立する社会。
魔法少女業の会社で働いていた桜木カナは、法律の緩和により信頼していた社長が逮捕され、会社も倒産の憂き目に合う。元社員たちと共に新しい会社を設立、元社長と再び合流したいと願うが。
新章に入ってから地下組織レジスタンス風味が出てきた(秘密の会合してるから)
でも手段としては「勉強して免許とって起業」という、真っ当な会社の道すじなので特に地下組織とかではない。
でもやってることはそっち方向なので、いち会社員として「会社員ってそんなに緊迫感あったかよ??」というのはいつも読みながら思っているのだ。いや別にいいんですが!!会社員なものですみません!!!
「ミミズヘッド」(読み切り)
未来において、先人たちが汚染した地表に暮らすことはできず、新人類たちは地下空間「泥黎(ないり)」に根を張る大樹「七重宝樹」が浄化してくれる空気や土壌に穴を掘り生活していた。
そこで暮らす肉体労働の少年たちは、もちろんどこへも行き場はない。毎日、穴を掘って暮らす。そこには「不自由」だけはある。
とても絵の感じが好みなのです。土臭くて線が多くて。泥臭いSF。
メッセージ性も少年マンガの真っ直ぐなものですごく好感度が高い、
読んでて嬉しくなるようなマンガでした。私はこどものころ、こういうマンガを読んでいたし、クリエイターはこういうメッセージを出していてくれたはずだよ(だから私はマンガが好きなんだ)
『133cmの景色』
ひるのつき子
「なぜ私は自分の見た目を謝っているんだろう」
吉乃華、25歳、食品メーカー会社員。開発企画。身長は133センチ。
見た目への偏見、偏見による無自覚な暴言、仕事への障害。
そして、そんな自分も持つ他者への無自覚な偏見。
マイノリティであることを持つ生活者の葛藤と、折り合いの付け方を爽やかに描く。
知人が身長140センチ台で、もうどこに行っても(特に海外)面倒で面倒でたまらないという話を聞いているし、こちらもつい「かわいい属性」を押し付けてしまうことがあって反省しながら読んだ。
いろんな視点のマンガが出るのは本当にいいことで、それが消費の文脈になっていたとしても、「自分の中にある偏見」を掘り当ててくれることは得難いなって思って読んでる。
『トマトエモーション』
田中実
田舎の農家ではプチトマトばかりが盗まれる。
でも、そのトマトを返してくる人がいて・・・?
教育実習生制度のクライムもの読み切り。
構造としては青年マンガの定番的なところはあるんですが。。。。。
なにせ現実の教育実習生制度が悪辣すぎるので、読んでいても悪人が誰かすぐわかりません。マンガってさ、「誰が悪いか」って、普通けっこう前から分かるじゃん。私、わかんなかったんだこのマンガで。。だってそもそも制度自体が悪すぎてさあ。。
ヒーローファンタジーなので甘い終わり方ですが、それ以前に全てが悪すぎて善悪判断がゲシュタルト崩壊します。おれ、安田峰俊のルポ本でこういうの見たことある。
エンタメ素材として消費ができない。。。
私は性格がとてもいいので週刊実話系露悪ルポをちょいちょい読むのですが(よいせいかく)、教育実習生の話は露悪とかじゃなく劣悪な人身売買としてみた方がいいやつで。
この素材が普通にエンタメとして出てきてるあたり、もう「隠せなくなってる」なあって。。海外アーティストへの性加害や各種人権侵害、日本における人権の粗雑な扱いが隠せなくなってきてると思います。昔は「こんなこと滅多にないファンタジー」でごまかしてきたけど、もう「普通のおじいちゃんと接触できること」になった。
あと作中に出てきたプチトマト、「イエローアイコ」、
アイコトマトって名前のトマトですよね。普通に美味しくてよく買うんですよウチは(ちょっと高い)
そういう側面からも現実にフットインザドアっつーか、こじ開けてくる感覚ありますね。マンガとしてうまいな、と思います。。
ちなみに作者は48歳、この作品でデビューとのこと。「田中実」は日本で一番多い名前だそう。
ビックコミックオリジナルは小学館。『昭和天皇物語』『三丁目の夕日』『釣りバカ日誌』などの保守傾向の作品がメイン。ちなみに男性(青年以上)向け漫画誌としてはいまのところ売り上げ一位。
『だんドーン』
モーニング2023年38号
泰三子
↓はプロローグ試し読み。今回の紹介は38号のもの。
『ハコヅメ』の泰三子が描く、幕末警察黎明期コメディ。
「漫画によるプロパガンダについて」の本が本棚に10冊くらいあるヒューマンとしては、警察の起源を扱う漫画ってのはファイティングポーズで読まざるを得ないんだけどこれがまあ面白い。
西郷隆盛を追って薩摩藩へ。九州男児たちの「男試し」のやばさ、そして現代的な価値観からの軽やかなツッコミにゲラゲラ笑ってしまう。やーおもしれー!
全編この調子で、知らない史実は面白いわツッコミは現代的だわでめちゃくちゃ面白いッス。おーもーしーろー。
なお、「マンガに出てくる史実は話半分」というのは一日7回は唱えたい。はい今日1回言った!あと6回!
『逢いたくて、島耕作』
↓はプロローグ試し読み。今回の紹介は38号のもの。
島耕作世界に転生してしまったZ世代サラリーマン。彼は大の島耕作フリークで、島世界に介入して島耕作界の悲劇のキャラクターを救おうとする!!
島好きによる島好きのためのマンガなんですが、課長島耕作の舞台、1980年代のサラリーマン風俗史としてめっちゃ面白いんですよ。当時の新幹線はタバコふかしまくり!!
主人公は作品『課長島耕作』を「聖典」と呼ぶアレな若者ですがwその解像度で島世界を現代人の目線で解説してくれるという、島耕作を理解するのに最適なマンガ。
歴史学習マンガとか理科学習マンガとかあるじゃないですか、あれの「島学習マンガ」。
惜しむらくは島ニスタ(島耕作好き)しか面白くないんですけど。。でも結構いるでしょ島ニスタ。いない?まあいないか。いないか?(混乱)
『二階堂地獄ゴルフ』(新連載)
モーニング2023年38号福本伸行
『カイジ』の福本伸行が・・・!ゴルフもので新連載・・・ッ!!
二階堂進、35歳。プロテストに10年落ち続けるゴルファー。
10年前は、期待の星だった。褒めてもらった。チヤホヤされた。明るい未来があると思った。
でも今、俺は何者だッ・・・!!
導入からしてイテテテテ、という見事なルサンチマンッ!35歳という年齢も嫌だ!公園でイチャつくカップルに八つ当たりして「俺を1人にしてくれ」ってお前が家帰れ!!
『カイジ』でダラダラした若者を徹底的に追い詰めた福本伸行ですから、どんなふうに35歳男性を追い詰めるのか見ものデスね。。ザワ・・・ザワ・・・
「[第13話]ハンサムマストダイ」
はあバカバカしい・・・(褒め)アイドル?ギャグ漫画。
女の子がアイドルに強引に触られて「バカにすんな気持ち悪いんだよバカが」とブチ切れます。これが2023年のこどもにもわかるリテラシーですね(一部大人ときたら。。)
あと生魚食べてアニサkiss・・・って呟きます。バカじゃない?(褒めてる)
私はギャグ漫画にこそターゲットのリテラシーラインが出ると思ってるので、ハンサムマストダイで「触られたら気持ち悪い」になってくれてたのはホッとした。
そうだよーふつう触るとか触られるとか気持ち悪いよー他人だよ他人ー(ここんとこ、そういう事件があったわけですよ・・・)
『サバンナホットライン』(新連載)
緊張すると吃音が出る女子高生は、ことばのいらないサバンナを夢見る。
でもある日見た短歌は、自分の気持ちを表すもので。
短歌と心の話なのかな?
現代の歌人の作品が、今回は3つ出てきます。
ことばの持つチカラはことばに翻弄される子にアプローチするのか。
『アスラの青春』
シュラード星からやってきたのは腕が6本のシュラード星人、利天アスラ。
バトルを強いられる戦闘民族の家系が嫌で、地球にセイシュンしにやってきた!
かわいくってニコニコのSF。
ジャンプラのルーキー枠、編集者のついていない投稿。レベルが高いですねえ・・・
『断腸亭にちじょう』
ガンになったひねくれ漫画家、ガンの日常を語る。
心象風景とも言うべき漫画の絵を、コマごとに絵柄を根本的に変えたり、アクロバティックな構図にするなど意欲的な「闘病マンガ」。
最新話はあまりそういう工夫がなくて、逆に心配になる。元気だろうか。。
手塚治虫文化賞の新生賞(斬新な表現などに贈られる)を受賞したトロフィーがチラリと見えて、さすがひねくれ漫画家の矜持。
『税金で買った本』
ヤングマガジン2023年38号
↓は1話試し読み。今回の紹介は38号のもの。
ヤンキー少年、石平くんは図書館のアルバイト。司書さんたちと図書館の裏側を覗く、楽しい「図書館お仕事もの」!
今、最も求められている(私に)読書感想文編。
石平くんの過去と、本へのコンプレックスが明らかになるマイルストーン回。
ほのぼのした作品だけどちょっと緊張が走る回です。石平くん。。(涙)
この「感想文編」、石平くんに文章を書かせようとする石平くんの脳内アバター「パーンちゃん」が、少し悪魔めいていていいなあと思います。文章を書くこと、本を読んで感想(それは「自分の心」に他ならない)を取り出そうとする時、自分の心に手ェ突っ込んで、嫌なところに触れてしまうこともあるもんね。神か悪魔か、と言えば悪魔の所業だと思いますよ、文章を書くことは(それは盲目的な信仰ではなく、科学的な冷徹の行動・・・)
『平和の国の島崎へ』
今のヤングマガジンのおすすめマンガっす。
9歳で国際テロ組織に拉致され、戦闘工作員として30年間生き延びてきた男、島崎真悟。日本に帰ってきた島崎は、平和な暮らしを手に入れられるのか。
「過去スゴかったおじさん、日常生活でアワワするけど過去の因果で寄ってくる敵をノールック無双」っていう類型のマンガ(るろうに剣心は近いのかもしれないな・・・)なんだけど、隠密市街戦や日常的な体捌きのスゴさと日常のほのぼののギャップ、中東帰りと思われる食の好みなんかが楽しいです。エジプトのコロッケとか美味しそうよ。
島崎、本当に物腰も柔らかくていい人で、そういう人が敵を目にした瞬間にアフガン帰りの眼光を取り戻して無双・・・って、見たかったでしょこういうの?っていうエンタメっす。