ミッドサマーのディレクターズカット版が公開されましたねー
そのためTwitterでもミッドでサマーな話題が盛りだくさん。
私も先日、ディレクターズカットじゃないバージョンを観ましたが実に良い・・・
ダニーの訴えるような泣き声が笑顔に変わるのはある意味で幸福であるとすら感じました。
ホラーとしてもおぞましく、特に欧米文明文脈における「科学的文明・個の確立」の世界に生きている人たちにとって土着信仰・個の破壊はとてつもない恐怖だったのではないかなと。
そこでこの機会に、ジャパンマンガからオカルティック&個の侵食がテーマの『青野くんに触りたいから死にたい』をご紹介します。
怖いんだよオ、でもね、美しくて・・・
そして、「それって不幸だっけ・・・?」と困惑するんだよオ・・・
【あらすじ】と 【オカルト部分・個の侵食】についてご紹介します。
※ちょっとネタバレ、っていうかオカルト部分を解き明かすミステリでもあるので、もし興味があるならすぐ読んできてもらった方が良いです!
【あらすじ】
優里ちゃんは明るいけれどコミュ障な女の子。
隣のクラスの青野くんに一目ぼれして告白。無事付き合うことに。
でも、すぐに青野くんは交通事故で死んでしまいます。
自分が死ねば青野くんに会えると思った優里ちゃん。カッターを手首に押し当てたとき、青野くんが幽霊になって止めに来ます。
幽霊でも青野くんがいればいい、青野くんと話せて幸せ。
優里ちゃんの純粋すぎる想いを、青野くんは受け止めます。
しかし青野くんは次第に、優里ちゃんの体を蝕む悪霊に変化していきます・・・
軽めのラブコメのように始まる本作。
次第に土着の伝承や精神への侵食など、まったく洒落にならないホラーが展開されます。
【オカルト部分・個の侵食】
まず、オカルト部分について。
交通事故から幽霊として優里ちゃんの元へ戻ってきた青野くんですが、彼が戻ってきたのはきちんと因果関係があってのこと。
捧げた「生贄」、これからさらに求める「犠牲」、そして数人の子どもたちが手に傷をつけて行う「儀式」。
町に伝わる都市伝説、「四つ首様」の言い伝えをもとに、幻とも幻想ともつかぬ人たちが山道に長く連なる「行進」。蛇の首を落とす儀式。
まだ連載中で、青野くんの真意ははっきりしていません。
ただひとつ分かっているのは、青野くんは優里ちゃんの体を狙い、少しづつ命を奪っていること。
優里ちゃんが許すたび、青野くんは優里ちゃんの目の色素を、髪の色を奪い、優里ちゃんは吐血しじわじわと弱っていきます。
これは優里ちゃんとこの世の物理法則以上の理の上で契約をし、優里ちゃんを供物として奪っていっているのです。
・・・どうでしょう、オカルティックな部分、イメージできましたでしょうか。
そして「じゃあ優里ちゃんはなぜ青野くんに捧げてしまうのか?(許さなければええやないかい)」という疑問にもアンサーがあります。
それが「個の侵食」です。
優里ちゃんは極めてコミュニケーション能力に問題のある少女です。
明るい少女なのですが、物語が進行すると優里ちゃんが家族から虐待を受けていることが明らかになります。
それは蹴る、殴るといった分かりやすい身体的暴力ではありません。
「嫌なことを本人のせいだと思い込ませる」「他人(姉)の辛さを優里ちゃんで解消させる」といった精神的な暴力です。
優里ちゃんは素直ないい子ですが、こういった家庭環境のため自己愛が育っていません。
そのため、青野くんに体を奪われていくことを「愛」だと勘違いしています。
自分の体に侵食され、奪われていくことを、恍惚とした快楽として認識しています。
ではそれが不幸なことか?と言えば、「自分に侵食してくるくせにひどい扱いをする家族」や「距離感がつかめない優里ちゃんをバカにしてくるクラスメイト」よりは、「奪うけれど優しい青野くん」の方が、優里ちゃんには良いヒトなのです。
『ミッドサマー』でも、ダニーのことを幸福か不幸かを断じることは難しいと思います。
恋人のクリスチャンや一緒に来た友人たちは供物にされ、ダニーも元の世界に戻ることは許されないでしょう。
しかしではそれは不幸でしょうか。
家族はダニーを顧みず死んでいき、恋人はダニーのことをうっとおしがり、理解するそぶりすらない。
でもホルガにいれば、村の女たちと感情を共有し、悲しみを理解してもらえます。
文明社会の生活から考える幸せではありませんが、ダニーは映画のラストで微笑みます。
『青野くんに触りたいから死にたい』でも、優里ちゃんは家族から個の尊厳を侵されているため、青野くんに体を奪われることを否としていません。
むしろ優里ちゃんは、青野くんに体を蝕まれているとき、幸福そうに見えるのです・・・
どうでしょう!どうでしょう!ミッドサマーが面白かった皆様!
『青野くんに触りたいから死にたい』読みたくなったのでは!
しかしながらご注意いただきたいのがムチャクチャ怖いことです。
私は特に怖いのが苦手なたちではあるんですが、グロなしの和のぬめっとした怖さに新刊を読めば数日は悪夢にうなされ、話題にすればストレスで耳鳴りがする(マジ)ほど。
そんなに怖いならやめりゃいいのに・・・と思われると思われるんですが、人物描写の巧みさ・そして優里ちゃんの切ないほどの思いの強さに惹かれてまた読んでしまうわけです(ちなみに今も怖くて背中が怖い)。
なお、kindleなら1巻が無料みたいです(今度ドラマ化するからかな)。
巻を追うほどに面白く(&怖く)なってきますが、興味があれば1巻からお試ししてみてください!
(それにしても私の怖がりは異常なので、多分ふつうの人ならもう少し平気だと思いますよ・・・)